・待ち合わせや締め切りが守れない。
・部屋を片付けられない。
・集中力が持続しない
などなど、その症状から「社会人失格」のレッテルを貼られがちな「ADHD(注意欠如・多動性障害)」。こうした症状が原因となって会社で何度も怒られたり、あるいは周囲とトラブルになったりして困っている人は少なくありません。
しかし、これらの症状は対処可能なものです。
1980年代からADHDの研究をつづけ、多くの著作をもつ医学博士の司馬理英子さんによると、ADHDは「障がい」ではなく「脳のクセ」。そのクセを知ることでうまく付き合っていけるとしています。
ADHDとはどんなもので、どんな対処が可能なのか。司馬さんにお話をうかがいました。
■「ADHDは天才肌が多い」は本当か
――まず「ADHD」という言葉なのですが、ここ数年で急速に広まった印象がありますね。
司馬:ADHDはもともと子どもの領域でよく知られていました。大人にもADHDの傾向がある人がいるということが知られてきたのは、この10年ほどの間だと思います。
――よく耳にする言葉だけに、正確に理解することなくわかった気になってしまいやすいのもADHDの特徴です。あらためて、ADHDとはどのようなものなのか教えていただきたいです。
司馬:ADHDの傾向がある人の特徴は大きく分けて3つあります。
一つは、集中力の持続が困難で、不注意やケアレスミス、忘れ物や落し物が多かったり、やらなければいけないことを忘れてしまったりします。
二つ目は「多動性」といって、動きが多くて、落ち着きがないこと。子どもの場合はいつもはしゃいでいる感じなのですが、大人は細かい動きが多くなる傾向があります。
もう一つは「衝動性」といって、考えずに物事に反応してしまうという点が挙げられます。たとえば、欲しいと思ったら反射的に買ってしまったりというようなことですね。
普通は、欲しいものがあっても、「待てよ、今は我慢しようかな」というように抑制が働くのですが、その抑制が効きにくいのが特徴です。思ったらそのまま行動してしまう。
――ADHDについて、子どもについては昔から知られていたというお話がありましたが、子どもの頃は今お話しいただいたような特徴がなかったにもかかわらず、大人になってからADHD傾向の特徴が出始めることもあるのでしょうか。
司馬:そういう方もいるのですが、環境面の変化に要因があるケースが多いです。
どういうことかというと、子どもは基本的に学校にいって家に帰ってという生活で、何かあったら親がフォローしてくれたりもします。でも社会人になると、仕事があって家庭生活があって、人によってはそこに子育ても重なる。
学校生活くらいのシンプルさであれば何とかやれていたものが、大人になると処理しなければいけないことが急に増えますし、これまで家で親にサポートされていたものが、自分が親になったら今度はサポートする側になるわけです。
そういうところで処理が追いつかなくなって、トラブルが起きた後で、もしかしたら私はADHDなんじゃないかと気づくケースは多いかもしれませんね。
――司馬さんの著書『仕事&生活の「困った!」がなくなる マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(しおざき忍画、大和出版刊)を読むと、ADHDは「ADHDかそうじゃないか」という白か黒かの話ではないことがわかります。
司馬:血圧が高い低いというのと同じであくまで相対的な話で、この数値に達していないから大丈夫という問題ではありません。
先程お話しした症状が生活のなかにたくさんあって、なんとなく困っていたり、周囲の人との間でトラブルが起こっているようでしたらケアが必要ですし、診断を受けた方がいいかもしれません。
――この本では、ADHDを「障がい」ではなく「脳のクセ」と捉えています。この理由について教えていただきたいです。
司馬:「障がい」という言葉自体、生活の中に馴染みにくいというのがひとつあります。それであれば「脳のクセ」と捉えたほうが、本人も周りの人も「そのクセを理解したうえで、どう取り組んでいくか」という前向きな行動につながりやすいのではないでしょうか。
――ADHDだと診断された場合、医師の方からはどのような指示やアドバイスが考えられますか?
司馬:ケースにもよりますが、たとえば忘れ物があまりにも多いということであれば、どうすれば忘れ物を減らせるのか、というアドバイスはできますし、どうすれば周囲の人のサポートをより集められるかといったところについてもお話できます。
ただ、それだけではなかなか改善しない方もいて、そういった方には薬を使った治療をすることもあります。
――日常生活に困難を覚えることが多い一方で、ADHDの人にはいわゆる「天才肌」の人も多いと聞きます。これは本当なのでしょうか。
司馬:ありえるお話だと思います。通常、人はそれまでの自分の経験にしたがって未来を予想します。いわば、「経験を通して考える」という、ある種の抑制にもとづいているわけです。
ADHDの場合、そういった抑制ですとかリミッターがない方が多いので、それが正しいかどうかはともかく、他の人が考えもしない発想が出てくることはあるのではないかと思います。
(後編につづく)
『仕事&生活の「困った!」がなくなる マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』の著者、司馬理英子さん