歳をとるとともに、身体のあちこちに感じるようになる不調。
不調の出方は人によって様々だろうが、腰やひざに痛みや違和感をおぼえるようになる、というのはよくあるケースだろう。
そうしたとき、痛みを感じる部位そのものをケアしようとしてしまいがちだが、ケアすべき部位は身体の「もっと奥」にある。
そう主張するのは、『腰・ひざ 痛みとり「体芯力」体操』(青春出版社刊)の著者で、これまで高齢者を中心に3万人以上のパーソナルトレーナーを務めてきた鈴木亮司さん。
そこで今回は、鈴木さんがこう主張する理由、さらに腰痛やひざ痛の発生メカニズムなどについてお話をうかがった。
■腰痛・ひざ痛の大元の原因は「大腰筋」にあり
――まずは本書の執筆経緯を教えていただけますか。
鈴木:私は普段、パーソナルトレーナーとして活動しています。具体的には、腰やひざの痛みを和らげようと、病院へ行ったり、筋トレをする等の努力をしているにもかかわらず、症状が改善しないという方の身体を見ているんです。
そうした活動を通じ、「身体の原理原則」に従うことの大切さを実感したことが執筆のひとつのきっかけになっていると思いますね。
元々、「大腰筋が疲労と硬くなると腰やひざに痛みが出る」という理論を説いていた鶴田昇先生のところで整体を、東大名誉教授の小林寛道先生からは科学の根拠に基づいた身体理論を学ばせていただいたことも大きかったです。
こうした実践や理論を背景に、身体の原理原則に従った運動をしさえすれば、努力しているという感覚をさほど持たずに、腰痛やひざ痛を和らげることができるということをお伝えしたくて本書を執筆しました。
――「身体の原理原則に従う」ということを具体的な形に落とし込んだのが、本書で紹介されている体芯力体操ですね。
鈴木:その通りです。腰痛やひざ痛の原因は、医学的にはまだはっきり解明されていません。しかし、これまで約16年間にわたって様々な方の身体を見てきたなかで、「体芯に凝りがあると腰痛・ひざ痛になりやすい」という実感が強くなっています。
体芯とは、みぞおちの裏側あたりの背骨から股関節につながっている「大腰筋」のことを指しています。これは、上半身と下半身をつないでいる唯一の筋肉であり、足と腰を動かす上で欠かせない部分といえます。
そこで、体芯の筋肉を動かし、体芯の凝りをゆるめるための体操を、ということでつくったのが体芯力体操でした。
――体芯が凝ると、なぜ腰痛やひざ痛になってしまうのでしょうか。
鈴木:どんな筋肉も、その表面は筋膜に覆われています。この筋膜が運動不足や血行不良、疲労などによって硬くなったり、よじれたり、引っ張られたりすることで痛みが発生してしまうんです。
とりわけ大腰筋は股関節を通して足を動かすさまざまな筋肉とつながっているため、ここに不具合が出ると、腰やひざの筋肉にも悪影響が出てしまいます。
逆にいうと、この大腰筋の凝りを解消することができれば、腰痛やひざ痛の改善に効果が期待できます。
――ちなみに体芯力体操とは、具体的にどのようなものでしょうか。また、どれくらいの頻度で行なえばよいですか。
鈴木:体芯力体操は、背骨を動かす「前後、左右、ひねる」の三つの動作に、股関節を動かす動作を積極的に組み合わせたもので、全部で20種類ほどあります。ですが、どれも30秒ほどでできるものなので、1日あたりトータル10分もあれば充分です。
頻度については、できれば毎日、それが難しければ、最低でも週に2回おこなうだけでも効果を実感できると思います。
――では体芯力体操の効果を実感できるまでに、どれくらい時間がかかると思っておけばよいですか。
鈴木:早い方であれば1回、感覚の良い方だと2~3回、多くの方は1ヶ月ほどで効果を実感できたとの声をいただいています。
――体操をおこなった本人は、何をもって「体芯の凝りがとれた」と判断すればよいのでしょう?
鈴木:「座る」、「立つ」といった行為をする際に、自然と肩の力が抜けるようになれば、それが体芯の凝りがとれた証拠です。
結局、体芯の凝りがとれる、すなわち体芯力がつくということは何を意味するのかというと、姿勢が良くなることなんです。
姿勢が良くなれば、身体の色々なところの余計な力が抜ける。余計な力が抜ければ、身体の動きも良くなる。結果、疲れにくくなる。腰痛やひざ痛がとれるといったことにとどまらず、こういったことが、体芯力体操の効果といえるでしょう。
(後編へ続く)
『腰・ひざ 痛みとり「体芯力」体操』の著者、鈴木亮司さん