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「どうしたら暴力はなくなるのか」元PL監督が明かす野球部の闇

 今年はWBCで始まった日本の野球シーズンだが、やはり「球春到来」といえば春のセンバツである。

19日に開幕した春の選抜高校野球の出場校は、おなじみの強豪校から新顔の初出場校までさまざまで、楽しみな顔ぶれだ。しかし、やはり「あの高校」の名前がないことを寂しく思う野球ファンもいるのではないか。

■度重なる暴力事件 PL野球部はなぜ変われなかったのか

PL学園は、まちがいなく高校野球の世界で日本一有名な学校だった。

それだけに、桑田・清原のKKコンビを始め、立浪和義(元・中日)、福留孝介(現・阪神)、前田健太(現・ロサンゼルス・ドジャース)など、プロ球界に81人もの人材を輩出している名門の休部は、単なる噂だった時期から実際に決定するまで、野球界を騒がせ続けた。

昨夏の休部に至った原因は一つではない。しかし、その一端に同部による度重なる不祥事があることはまちがいないだろう。その不祥事の大部分は上級生から下級生への暴力事件である。

「逆に僕はあなたにお聞きしたいんです。『どうしたら高校野球に暴力はなくなるんですか?』」(『永遠のPL学園:六〇年目のゲームセット』P141より引用)

これは、かつて前田健太らを指導した元PL学園監督・藤原弘介氏(現・佐久長聖監督)が『永遠のPL学園:六〇年目のゲームセット』(小学館刊)の著者、柳川悠二氏に問いかけた言葉である。

PL野球部の「暴力体質」に対して、指導者や学校が何もしてこなかったわけではない。藤原氏にしても、暴力の温床とされていた寮内での付き人制度(下級生が上級生の身の回りの世話をするしきたり)を廃止するなど、暴力の再発防止に努めたが、それは減りこそすれ完全になくなることはなかった。

「きつかったが、あの時の体験があるから今の自分がある」というのは、PL野球部OBの野球選手が、高校時代の思い出話としてよく言う言葉だ。当然、「きつかった」の中には上級生からの暴力も含まれているのだろう。

しかし、そうした暴力とその周辺のできごとを「いい思い出」として振り返ることのできる人々がいる一方、暴力によって野球を辞めざるをえなかった元部員も大勢いたことは想像に難くない。

■「本気で選手と向き合っていたから、その方法論として手を出した」

本書では、同校野球部の元指導者など関係者が、「暴力はいけないこと」としたうえでではあるが、「苦難を乗り越えた時に、大きな自信になる」と、そこには暴力が含まれていたはずの下級生の厳しい環境を擁護したり、「本気で選手と向き合っていたから、その方法論として手を出した」と語るなど、どこかで暴力のポジティブな側面を信じているようなコメントが散見される。

かつては当然のようにまかり通っていたこうした価値観が通用しない時代になったことは、暴力事件が頻発した2000年代のPL野球部関係者もわかっていたはずだ。しかし、それでも部が本質的に変わることができなかったのは、この価値観を完全に捨て去ることができなかったからではないか。

それは、名将として知られる中村順司氏以降、歴代監督をすべてPL野球部OBが務めてきたことと無関係ではないだろうし、監督を任命してきた学校側や母体であるPL教団とも関係があるはずだ。そして、本書に書かれている休部までのいきさつの全体を見ると、その原因は、暴力事件よりもむしろ「学校・教団と野球部の関係悪化」にあったようである。

1980年代のPL野球部黄金期には、学校と教団、信者、そして野球部の間に、「教団と学校が野球部を支援し、野球部が甲子園で勝ち、教団と学校の認知が上がり、信者や生徒が増える」という良いサイクルが生まれていた。

しかし、このサイクルはいつしか逆回転を始めてしまった。

歯車が狂い始めたのはいつからだったのか。日本の野球史に残る強豪校の盛衰記である本書を読んで、ぜひ確かめてみてほしい。

(新刊JP編集部)

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