「未完の西郷隆盛」先崎彰容著

NHK大河ドラマをはじめ、巷にあふれている「愚直な西郷どん」というイメージを一新する好著。

司馬遼太郎は、西郷を近代日本の「青写真」を持たない「時代遅れの人物」と低く評価したが、じつは一流の知識人たちの多くが「西郷の先見性」を高く評価していたという。たとえば福澤諭吉は、西郷が「情報革命」が起きていることに誰よりも早く気づいていたと称賛。中江兆民は、西郷が「自由放任経済」の危険性に警鐘を鳴らしていたとする。玄洋社の頭山満は「西洋文明の野蛮さ」を正々堂々と批判した西郷を尊敬し、政治思想史研究社の橋川文三は「天皇制の欺瞞（ぎまん）」を暴いた西郷に注目する。文芸評論家の江藤淳は、西郷が「太平洋戦争の敗戦を予見していた」と激賞した。

日本思想史の研究者である著者が渉猟した数々の西郷論から、左翼も右翼もとりこにした西郷の意外な天才性が浮かび上がる。