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「最強の経営者 小説・樋口廣太郎 アサヒビールを再生させた男」高杉良著

  アサヒビールを急成長させ、業界トップに立つ礎を築いた“中興の祖”樋口廣太郎氏を主人公にした経済小説の第一人者である著者の最新刊。帯には「作家生活40年、著者最後の企業小説」と銘打たれている。
 住友銀行副頭取から「夕日ビール」と揶揄(やゆ)されていたアサヒビールに転じた樋口氏は、社長就任前に顧問となった直後から動き始めた。同じ銀行出身の先代社長や大蔵省出身の社員。組合委員長、そしてプロパー社員などにこわもてと懐柔策を用いて、わずか3カ月でトップの座を不動のものとする。
 社長就任後も、古いビールの廃棄や、発酵タンクへの思い切った設備投資を周囲の反対を押し切って断行するなどリーダーシップを発揮。そして、社会現象を巻き起こす大ヒット商品となり、現在もアサヒビールを代表するブランド「スーパードライ」の発売にゴーサインを出し、シェア拡大を続けていった。
 瞬間湯沸かし器を自認していたという樋口氏は、部下に厳しく接する一方で、社員や取引先への繊細な気配りも欠かさないなど、「コクもキレもある」人物像が著者の丹念な取材で多面的に描かれている。
 社員が困っている点を取り除けばおのずと上昇していくという「熱気球論」を唱えて社員の士気高揚を図り、闘う集団に変えてゆく。ビジネスの教科書にも採用されるほどの大成功を招いた「強運の人」という側面に加え、たしかな経営手腕と人間力が詳細なエピソードとともに紹介されている。
 スーパードライの成功譚(たん)にとどまらず、社長退任後の財界での活動や公職での活躍、オペラや美術など文化事業での貢献が大きかったことも興味深い。また、樋口氏一人の力だけでなく、後継社長をはじめとするプロパーたちの活躍があったからこそ業界トップへの躍進が可能だったことも明記されている。
 スーパードライの特徴である“辛口だけどすっきりした味”は本書の読後感のようでもある。

書名:最強の経営者 小説・樋口廣太郎 アサヒビールを再生させた男
著者:高杉良
発行:プレシデント社
定価:1600円+税

夕刊フジ

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