『オーパーツ 死を招く至宝』(宝島社)で、第16回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した蒼井碧(あおい・ぺき)さんの最新作が、本書『建築史探偵の事件簿』(宝島社)だ。
「オーパーツ」とは「Out Of Place ARTifactS」、つまり「場違いな工芸品」、たとえばナスカの地上絵、イースター島の人面石像などを指す。当時の技術や知識では制作不可能なはずの古代の工芸品をテーマに華麗な推理が繰り広げられた。その作風は引き継がれたようだ。
本書では、歴史的建造物「世界七不思議」と日本に現存する「七つの景観」との関係に迫りながら、建築史学者が不可思議な事件の謎に迫る。
「世界七不思議」とは、古代世界の建造物の中でも壮麗で注目される七つの景観のことで、一般的には、ギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園、エフェソスのアルテミス神殿、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、ロードス島の巨像、アレキサンドリアの大灯台の七つを指す。
「第1章 巌竜洞の殺人」、「第2章 金字塔の雪密室」、「第3章 石灯篭の不可能犯罪」の3章からなる。
第1章では、主人公の不結論馬(うゆい・ろんま)が高校時代に義兄の秀一と共に旅先の岩手県の鍾乳洞で遭遇した首無し死体事件の顛末が書かれている。東京の大学で東洋史を教える秀一の推理で犯人は捕まるが、「殺人犯は巌竜洞だ」と事故が発端だったことを示唆する。
事件の真相よりも、「世界七不思議」と日本に現存する「七つの景観」に関する秀一と論馬の議論が延々と続くが、なかなか興味深い。
奥州平泉にある浄土式庭園の起源が古代都市バビロンの空中庭園にあった、と秀一が切り出す。奥州藤原氏三代によって築かれた中尊寺、毛越寺などの寺院、庭園は、極楽浄土を空間的に表現した建築や庭園で世界遺産に登録された。
片やバビロンの空中庭園は「紀元前の中東を舞台にした御伽噺」と論馬は反論する。観念上の類似性とバビロンの空中庭園は平泉どころか日本庭園の起源かもしれないと指摘する秀一。
「平泉の浄土式庭園、そして空中庭園の正統な系譜であるパサルガダエのペルシア式庭園。お互いにまったく縁も所縁もなかったはずのこの二つの庭園は、二〇一一年、揃って世界遺産に登録されるという運命的な結末を迎えている」
ペダンチック(衒学趣味)と思える、こんなやりとりが知的好奇心を刺激する。
第2章では、京都の建築系の大学院に進んだ論馬のもとに、秀一と同じ研究室に所属しているという由布院蘆花と名乗る准教授が訪れる。モダニズム建築をめぐり、論馬と由布院の議論が続く。
富士山の歴史的役割を研究しているという彼女の依頼で、麓で山荘を経営する元登山家を紹介しようとしたが、1カ月前に事故死したことを知る。二人が富士河口湖町の山荘を訪れると、近くで集団自殺事件が起きていた。
真相はやがて明らかになるが、ここでもギザの大ピラミッドと富士山をめぐる歴史的な議論が展開する。
なぜ、富士山の麓、青木ヶ原樹海には自殺志願者が集まるのか。由布院はこんな推理を述べる。
「富士山はかつてギザの大ピラミッドの投影だった。そして大ピラミッドの西側は墓地になっているわ。その事実を私たちの先祖が伝え聞いていたからこそ、自覚のない記憶、本能としてその血に受け継がれ、今でも死を望む人間は無自覚のまま富士山に引き寄せられている――」
最終章では、さらに「世界七不思議」が日本に伝わっていたという仮説が検証される。学問的には荒唐無稽と退けられるだろうが、壮大な構想力には驚かされる。こんな気宇壮大なミステリーがあってもいいだろう。
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