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「書評」から複数の「入り口」が見つかる!

書評の仕事

 ほぼ毎日締め切りがある。一日1~2冊の本を読む。年間約500本の書評を書く。書評を出すたびにAmazonランキング急上昇......。このような本と文章漬けの生活を送っているのは、作家・書評家の印南敦史(いんなみ あつし)さん。

 印南さんが自身の経験を軸に書いた『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)は、書評家の日常、お金、売れる本、本の選び方、心を動かす文、要約の極意、批評/感想文との違いなど、書評家の秘密も技術も大公開した一冊。

 書評を掲載した本ではなく、書評そのものをテーマにした本はあまり見かけない。実際、「書評の仕事」というタイトルにピンとくる人はかなり限定されるだろう。それを見越して印南さんはこう書いている。

 「『別に書評なんか書かないから関係ないや』と思われるかもしれません。......でも実際のところ、書評に関するあれこれは、意外と他の多くのことに応用できるものでもあります」

複数の「入り口」

 印南さんは、1962年東京生まれ。株式会社アンビエンス代表取締役。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。主な書評発表媒体は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(株式会社KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)などがある。

 印南さんの「書く仕事」の出発点は、音楽ライターだった。1990年代後半あたりまでは音楽雑誌を主戦場としていた。やがて一般誌へ移行したが、リーマンショック到来。仕事が激減し、追い詰められていたタイミングで書評の仕事が舞い込んだ。「リーマンショック後は地獄を見ていた」印南さんにとって、これは「とてもありがたいこと」だった。まさか自分が書評を書くことになるとは思ってもいなかったが、いまでは多くの人に読まれ、書評を書くことにやりがいを感じるようになったという。

 そうした経緯があるだけに、「本書のなかからは単なる『書評ガイド』にはない複数の『入り口』を見つけ出すことができるのではないか」と印南さんは自負している。

 「書評を書くにあたっては、『読みかた』『書きかた』『選びかた』『接しかた』『考えかた』など、さまざまなことが絡んでくるから。それらはすべて、書評家以外のあらゆる仕事にとっても重要なファクターとなるはずです」

 個人的な話だが、評者は3年ほどBOOKウォッチで本を紹介してきた。書評に携わらなければわからなかったことだが、その背後には、本選び、読む、考える、書く、何度も手直し、という作業がどっさり。ベテランの人はどうかわからないが、評者の場合、書評は一筋縄ではいかない、まさにさまざまなことが絡み合った作業という肌感覚がある。「書評に関するあれこれは、意外と他の多くのことに応用できる」という印南さんの考えに同感だ。

書評の門戸が開かれた

 印南さんは、書評を「トラッド書評」と「ネオ書評」に分類している。そもそも書評とは「[読者のために]新刊の書物の内容を紹介・批評した文章」(三省堂『新明解国語辞典』第七版)という意味を紹介した上で、新聞・雑誌など紙媒体の「トラッド書評」(伝統的な書評)は「必ずしもその役割を果たしていないのではないか」と厳しく見ている。

 印南さんの実感としては、「トラッド書評」は難解で読みにくいものが多く、「内容をきちんと理解しなければ......」と少なからず緊張する。「これはおもしろそうな本だな。読んでみよう」と読者に思わせるという書評の本来の役割からすると、「それって本末転倒ですよね」。

 ところがウェブメディアが進歩した近年、ちょっとした変化が起きているようだ。ウェブ上で公開される書評が「気軽に読める文字情報」として「健全に浸透」している実感があるという。書評を読んだ結果として、その本が気になったら実際に手に取ってみればいい。なんとも思わなかったら忘れてしまえばいい。これは読者にとってのガイドラインとして機能していることになり、「書評の理想的なあり方ではないか」と感じている。

 「そういう意味では、インターネットが書評を『あるべき姿』に近づけてくれたのかもしれません。いいかえれば、書評のあり方に変化が訪れてきているのです。僕は、そこに可能性を感じています」

 一方、主に情報系サイトで一般化している、目的も表現方法も読者層も旧来と異なるものを「ネオ書評」と呼んでいる。

 「状況を大きく変えたのは、ネオ書評のようなこれまでになかったコンテンツと、その受け皿であるプラットフォームです。それらが絡み合うことによって『誰でも覗いてみたくなる』ような状況が生まれたからこそ、多くの人に門戸が開かれたのです」

「だから、本は魅力的」

 本書は「第1章 書評家の仕事とは」「第2章 書評家の『裏』話」「第3章 年500冊の書評から得た技術」「第4章 書評の技術・書評の教養」からなる。読者対象は、書評そのものに興味がある人、書評に付随するトピックスに関心がある人、ビジネスでの読み書きのスキルを高めたい人、業界事情を覗いてみたい人、と幅広く想定している。

 ここでは複数の「入り口」のなかから、BOOKウォッチ読者のみなさんの関心がとくに高そうな本の選び方を紹介しよう。

 まず、書評家が思う「おもしろい本」とはなにか。はじめに「おもしろくない、もしくはいい気持ちがしない本=避けたくなる本」を考え、そこから「おもしろい本」を探ってみたところ、印南さんが避けたい本は以下の3つになった。

1 書き手の個性が見えない
2 自分語り(自慢)が多すぎる
3 文章に魅力がない

 1は逆に、「その人にしか書けない」本は魅力的ということ。2は、若くして財を成した人が書いたビジネス書、自己啓発本など。「過度な自己顕示欲には不快感を覚えもします」とバッサリ。3は、「文筆家である以上、魅力的な文章を書くことはなによりも重要」ということ。印南さんも「自分の文章はおもしろいのだろうか?」と常に葛藤しているという。

 次に、書評家が思う「自分に役立つ本」とはなにか。印南さんの実感としては、以下の2つ。

1 意外にもしっくりきた(共感できた)本
2 自分から遠い場所にあった(はずの)本

 1は、自分とは価値観も違っているはずなのに、なぜか「なんらかの意味で」響いた本。2は、自分には関係ない、もしくは興味がないと思い込んでいたにもかかわらず、読んでみたらとても役に立った本。これらは「最初はとくに期待していなかった」という点で共通している。

 「視点を変えて接してみると、そういう本が大きく役立ってくれる場合があるのです。だから、本は魅力的なのです」

 「自分はこういう本が好み」という固定観念にとらわれがちだが、それは思い込みかもしれないという。たとえば、書店に平積みされている本のなかから「表紙に惹かれた」「タイトルがピンときた」「帯のコピーが気になった」などを基準に、普段の自分が選びそうもない本をあえて選んでみることをすすめている。

 最後に一つ。「出版不況といわれるようになってかなりの時間が経ちますし、たしかに本が売れているとはいえなさそうです」と前置きした上で、印南さんはこう書いている。

 「しかし忘れるべきでないのは、それでも本が好きな人は確実に存在するという事実。そんな『見えにくいけれど当たり前のこと』を、書評に関する記述のなかから感じ取っていただけるなら、とてもうれしいと感じるのです」

 本書は、帯にあるとおり「本好き、必読!」の一冊。文章を書くのも読むのも、おもしろいし奥が深い。本書を読んで、その重みをいっそう感じることとなった。



 


  • 書名 書評の仕事
  • 監修・編集・著者名印南 敦史 著
  • 出版社名株式会社ワニブックス
  • 出版年月日2020年4月25日
  • 定価本体830円+税
  • 判型・ページ数新書判・207ページ
  • ISBN9784847066399
 

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