読むべき本、見逃していない?

「本の町」をめぐる少女の冒険物語

この本を盗む者は

 『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)で、第160回直木賞候補となった深緑野分さんが、まったく趣の異なる作風の新作を発表した。本書『この本を盗む者は』(株式会社KADOKAWA)である。「読書の秋」にふさわしい本と書庫にまつわる幻想譚だ。

書庫を中心にした町

 全国に名の知れた書物の蒐集家で評論家である御倉嘉市が建てた書庫「御倉館」のある読長町が舞台。地下2階、地上2階の巨大な書庫で、何冊の本が詰め込まれているのかわからない(後に23万9122冊とわかる)。

 御倉館の影響で、読長町は「本の町」と呼ばれ、全国から本好きが集まる。この町の描写がこんな感じだ。

 「ちょうど商店街を出たところを横に走る大通りは、休日になると多種多様な本好きで賑わう。赤色に塗ったドアと青い看板のかわいらしい店は絵本専門店で、その隣はスロープ付きバリアフリーのブックカフェ、横断歩道を渡った先には、大手書店を退職した書店員が開いたしゃれた新刊書店がある。さらに、昔ながらの古書店、翻訳小説を主に扱う古書店、街に住んでいた小説家の書斎を改装した喫茶店、チェーンの新刊書店などなどなどが軒を連ね、十歩歩けば本にまつわるなにがしかの店に行き当たる」

 これはまだ序の口だ。読長町には全部で50店ほどの、本に関係する店が点在している。その中でも核心は御倉館周辺の古書街だ。本の神を祀るという読長神社には本にまつわる願い事を書いた絵馬がたくさん掛けられている。

閉鎖されたままの書庫

 ところが肝心の御倉館は一族以外には閉鎖されるという異常事態が続いていた。嘉市の娘のたまきの代に稀覯本の一部、約200冊が盗まれ、激高したたまきが閉鎖してしまったのだ。

 そして今はたまきの子どものあゆむとひるねの兄妹が管理し、あゆむの娘の深冬が登場するところから物語が始まる。深冬は本が大嫌いだ。国語の教科書を読むのも苦痛で、マンガ以外は年に1冊も読まない。

本泥棒を探す冒険へ

 ある日、書庫のある家に帰ると、叔母のひるねが居眠りし、手元にはこんなメモがあった。

 「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」

 気がつくと真白という少女がおり、呪いをはらすには本を読まなければならないという。差し出された『繁茂村の兄弟』という本は支離滅裂な内容だった。そしていまや町全体が『繁茂村の兄弟』の世界に変化しているというのだ。二人で本泥棒を探しに行くのだが......。

 これが「第一話 魔術的現実主義の旗に追われる」で、この後、「第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる」「第三話 幻想と蒸気の靄に包まれる」「第四話 寂しい街に取り残される」「第五話 真実を知る羽目になる」と、物語に呑み込まれていく街を救うため深冬の「本の世界」の冒険が続く。

本の中の本に小説内の現実が射影

 本をめぐる幻想的な物語といえば、森見登美彦さんの『熱帯』(文藝春秋)をBOOKウォッチでは紹介した。『熱帯』という本を探す物語で、『熱帯』についての語り手の話の中に、次の語り手が登場し、さらに語り手が登場するという「入れ子」の構造になっていた。

 それに対して、本書は本の中の本に小説内の現実が射影されていくという構造だ。この構造を壊して、町を救うにはどうしたらいいのか? 作者の知恵の見せ所だ。

 本書に出てくる御倉館で連想したのが、BOOKウォッチで紹介したばかりの『絶景本棚』(本の雑誌社)に出てくる書庫の数々だ。もちろん虚構の御倉館には敵わないが、イメージが膨らんだ。

"本の街"が埼玉県所沢市にオープン

 読長町を現実化したようなプロジェクトがある。埼玉県所沢市の再開発によって誕生する大規模複合施設「ところざわサクラタウン」内に誕生した図書館と美術館と博物館が融合する「角川武蔵野ミュージアム」だ。2020年8月1日に、1階の「グランドギャラリー」と「マンガ・ラノベ図書館」、2階のカフェがプレオープンした。

 KADOKAWAと埼玉県所沢市が共同で進めている街づくりプロジェクト「クール ジャパン フォレスト(COOL JAPAN FOREST) 構想」の拠点施設「ところざわサクラタウン」内でもひときわ目を引く存在だ。

 建築家の隈研吾さんがデザインした、多面体の"岩デザイン"の外観に圧倒される。建物の4階から5階にかけて展開される、高さ8メートルの巨大本棚に囲まれる空間「本棚劇場」は、11月6日にオープン予定だ。

 本棚の下部には、KADOKAWA刊行物の新刊をメインに配置。さらに、角川源義文庫、山本健吉文庫、竹内理三文庫、外間守善文庫、山田風太郎文庫のほか、個人蔵書の書物が計5万冊ほど収められる。4階のエレベーターを降りると、本棚に囲まれた「エディットタウン」。約2万5千冊が、松岡正剛さんの監修による9つの文脈にそって配置されている。

 この"本の街"では、自分の好きな作家やジャンルを選びながら、好きな本を手に取ることができ、さらには館内であればレストランやカフェなどでゆったりと読むこともできる。

 そういえば、本書の版元はKADOKAWA。「本棚劇場」にもこの本は収まることだろう。

 BOOKウォッチでは世界41か所の「本の街」を取り上げた『世界のかわいい本の街』(エクスナレッジ)を紹介済みだ。

  • 書名 この本を盗む者は
  • 監修・編集・著者名深緑野分 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2020年10月 8日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・340ページ
  • ISBN9784041092699

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