読むべき本、見逃していない?

鷹の爪の687倍! 世界最辛のトウガラシはどうやって作られたか?

とうがらしの世界

 最近、激辛の食べ物に挑戦するというテレビ番組をよく目にする。辛いもの好きの評者はついつい見てしまうのだが、先日、とんでもないものを見てしまった。ハバネロ、ブート・ジョロキア、カロライナ・リーパーといった辛さ世界一を競い合ったトウガラシをふんだんに使ったカレーなどの料理を食べ歩くという番組。辞退者続出で、そのリアクションが視聴者を引き付けるのだろう。激辛競争も行きつくところまで行ってしまった感がある。

読むだけで汗が出そうな一冊

 本書『とうがらしの世界』(講談社選書メチエ)は、「トウガラシおたく」でもある日本の農学研究者が、植物としてのトウガラシを「科学」しながら、世界のトウガラシにまつわる食文化をレポートした本である。読むだけで汗が出そうなマニア垂涎の一冊だ。

 著者の松島憲一さんは、信州大学農学部准教授。博士(農学)。農水省の農業試験場で研究員をしていた経験もあるから、本で得た知識だけでなく、栽培技術にも実績がある。

 松島さんの研究室では、数名の学生、院生とともにトウガラシを毎年1000株ほど栽培し、いろいろな実験や研究をしている。具体的には、世界各地で収集したトウガラシ在来品種を栽培し、その品種の特徴の評価を行い、そのデータと種子を、日本と収集国のジーンバンクに保存するというものだ。

 本書の構成は、第一部が「知っておきたいトウガラシの基礎知識」。

 第1章 日本とうがらし事始め
 第2章 食用トウガラシ、その起源と種類
 第3章 なぜ、トウガラシは辛くなったのか
 第4章 トウガラシの辛味あれこれ
 第5章 機能性食品トウガラシ

 日本にトウガラシが伝わってきたのは、いくつかの説があるが、おおよそ1542年から1680年頃までのあいだに、ポルトガル、もしくは朝鮮半島から伝わってきたこと、江戸時代には全国で80品種もが栽培され、現在よりも品種の多様性があったこと、東京の新宿(当時は江戸の内藤新宿)がトウガラシの名産地だったことなどが書かれている。

トウガラシは鳥に食べられるために辛くなった

 トウガラシがなぜ辛くなったのか、その理由について二つの説を紹介している。トウガラシは鳥に選択的に食べられるために辛くなったという説だ。鳥は辛味成分であるカプサイシンの刺激に鈍感で、しかも果実を丸のみするので、糞からトウガラシは発芽する。一方、ネズミなどの哺乳類に食べられると、果実は傷ついたり消化されたりするため発芽能力が失われる。だから、種子を広めるパートナーとして鳥を選択するために辛くなったという説だ。

 もう一つ、カメムシなどの昆虫が媒介するカビから防御する手段として果実が辛くなるよう進化したという説だ。

 トウガラシが最も嫌うのは、ネズミかカビか? 両説を松島さんは検討し、まずトウガラシの祖先野生種が生まれたと推測される南米・ボリビアでカビを回避するように進化し、その後、鳥だけに食べられるようになり、中南米各地に伝播していったと推測している。

 そして、ある哺乳類の一種、つまり人類にトウガラシは愛され、さらに多くの品種が生まれ、広まった。辛いという味覚とともにトウガラシの健康機能を指摘している。

 脂肪を燃やすカプサイシンのダイエット効果、体を温める効果、ビタミンCを含む効果だ。古代の人類がこうした効果を科学的に知っていたとは思えないが、経験的にトウガラシの効能を感じていたのかもしれない。

世界一周トウガラシ紀行

 第二部が「世界一周トウガラシ紀行」だ。トウガラシの故郷である中南米に始まり、ヨーロッパ、アフリカ、南アジア、東南アジア、東アジアを経て、日本に終わるトウガラシの旅だ。各地のトウガラシの品種と料理文化が詳しく書かれている。

 世界激辛選手権とも言える記述が面白い。カプサイシノイド含有量の比較だ。日本の代表的な辛味品種・三鷹(三河の鷹の爪から付いた)は約2000マイクログラムだが、ハバネロは16倍の3万3000マイクログラム。1994年から2006年までハバネロが、「最も辛いスパイス」としてギネス認定されていたが、実際にはハバネロに選抜改良が加えられた「レッド・サヴィナ」という品種が認定されていたそうだ。

 これを2006年12月に抜いたのが、日本の代表的な香辛料メーカー、エスビー食品が開発した「SBカプマックス」、翌2007年2月には「ブート・ジョロキア」に更新される。松島さんも「ブート・ジョロキア」を栽培試験しているが、平均で4万120マイクログラムあるという。

 「ブート・ジョロキア」はハバネロ・レッド・サヴィナの2.5倍の辛さの「トリニダード・スコーピオン・ブッチ・T」という品種に抜かれ、さらに2013年8月、カロライナ・リーパーに更新される。137万5700マイクログラムというから三鷹の687倍に相当する。

実際に食べられていた激辛品種

 この激辛競争について、松島さんはこう書いている。

 「いずれにせよ、ここまでくると、普通の人なら食べられない辛さであり、もはや人間の口ではどれが辛いか序列をつけることは不可能だろう。しかし、これらの品種は、特別な最先端技術によって開発されたわけでも、マッドサイエンティストにより作られたわけでもない。メキシコやインド、トリニダード・ト バゴで実際に栽培され、人々に食べられていた在来品種の中から選抜された品種なのである」

 以前BOOKウォッチで紹介した『胃腸を最速で強くする』(幻冬舎新書)によると、激辛食品はあまり体に良くないらしい。とうがらしを大量摂取する人の胃がん発症率は、そうでない人の1.7倍高いというデータ(メキシコ)があると指摘している。「大量摂取」の目安が分からないが、要はほどほどにということだろう。

  

 


  • 書名 とうがらしの世界
  • 監修・編集・著者名松島憲一 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2020年7月 8日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・245ページ
  • ISBN9784065202920

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