新型コロナウイルスの感染により、自粛生活を余儀なくされ、明日はどうなるのか? と心配している人も多いだろう。明るい未来を予測した本を読み、気晴らしにと手にしたのが、本書『2060 未来創造の白地図』(技術評論社)である。40年後の世界は、わくわくするような楽しさに満ちているのだが......。
著者はアスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部部長の川口伸明さん。東京大学大学院薬学系研究科後期博士課程修了の薬学博士。アスタミューゼ株式会社は世界80か国以上の新事業、新製品・サービス、新技術・研究、特許などを独自に分類・分析。未来創造、社会課題解決のための新規事業提案やコンサルティングを行っている。多くのスタッフが本書の執筆に協力しており、本書は同社が掲げる未来のショーウインドーのようなものだ。
2030年から2060年ごろまでの近未来、テクノロジーによって、生活や働き方がどう変わるかがテーマ。起こりうる「未来予想図」は、単なる夢物語にならないよう、論文・特許、公的研究費採択情報、プレスリリースなどの科学技術的エビデンスを集めて統計処理を行い、実現可能性の高い未来を提案している。以下の7章からなる。
第1章 ライブ化する世界、心が躍るほど楽しい生活 第2章 食と農のデジタル化が、食糧増産と健康長寿を促進する 第3章 ロボット化する交通、ゲーム化する都市 第4章 知覚と身体性の拡張:身体機能や知覚能力の違いが、新たな個性として、価値を生む 第5章 医療・ヘルスケアの未来~持続可能な未病マネジメント 第6章 宇宙・地球規模で資源・エネルギー・環境を考える 第7章 知の未来・知の進化~新たなるグレート・ジャーニー
さまざまな領域でAIの導入が進み、人と共存しながら、新たな社会と暮らしが実現していることを予測している。なかでも「第5章 医療・ヘルスケアの未来」を興味深く読んだ。「いつでもどこでも常時生体センシングがあたりまえに」なっているという。
着たまま生体情報が測れる「バイタルウェア」などから、生体データが本人も意識しないまま克明に記録される。体液中のマイクロRNAなどの極微量の生体成分を検出して、寝ている間に簡単な健康診断やがん検診をしてしまうことも起こりえる。
新型コロナウイルスのPCR検査がなかなか進まない、現在の日本からすれば「夢物語」のように思えるが、マイクロRNAの研究は東京医科大の研究グループや東芝が実用化をめざした臨床試験の準備を進めていることを紹介している。
在宅勤務の人が増えている折、もう一つ興味を引かれたのが、「第3章 ロボット化する交通、ゲーム化する都市」が提案する「住宅と一体化したパーソナルモビリティ」の項目だ。
「普段は1~2人用マッサージ機能付きインテリジェンスソファなのですが、緊急時や外から呼び出された時は、車輪を繰り出して、そのままあるいは天蓋カバーを張り出して、ラグジュアリーな車椅子のように外に走り出すということも考えられます」
さらに2050年代から2060年代になると、クルマは人格を持った指令AIロボットとしての性格を強めるかもしれないという。
「主人の健康状態を慮って、空調など家の環境を調整したり、食材や医薬を調達したり、場合によってはクルマが自分で買い付けに向かったり。外出中に体調を崩した場合は、クルマの判断で引き返したり、医療機関に連絡したり、感情や個性を持ったクルマが出現する可能性は、十分ありえます」
各章は以上のような「未来予想図」と技術動向をまとめた「未来の部品」からなり、各章末の参考情報には、注目スタートアップや研究プロジェクトなどが収められているので、関係者には参考になるだろう。
本書は新型コロナウイルスについては、まったく記述がないが、本書に登場するAI創薬などの手法により、早期のワクチン開発が進むことを期待したい。世界が多くの金と資源をウイルス克服に投入しているので、本書が予想する未来の到来は少し遅れるかもしれないが、「人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる」という著者の主張は、多くの人を勇気づけるだろう。
BOOKウォッチでは、未来予測関連として、『未来の年表2』、『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』(いずれも講談社現代新書)などを紹介済みだ。
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