読むべき本、見逃していない?

なぜ「大阪都構想」が浮上したかが分かるかも知れない

  • 書名 図説 京阪神の地理
  • サブタイトル地図から学ぶ
  • 監修・編集・著者名山口覚、水田憲志、金子直樹、吉田雄介、中窪啓介、矢嶋巌 著
  • 出版社名ミネルヴァ書房
  • 出版年月日2019年6月20日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数B5判・200ページ
  • ISBN9784623084845

 地理を小中学校、高校で学ぶとき、身近な地域よりも日本、世界と拡大して勉強することが多いのではないだろうか。そのため地理は「暗記科目」と敬遠されがちだ。

京阪神の大学で使われる人文地理学の教科書

 本書『図説 京阪神の地理』(ミネルヴァ書房)は、人文地理学の視点から、京都市、大阪市、神戸市という3つの大都市を中心に地図や写真をもとに解説した本だ。著者の多くは関西学院大学、関西大学など京阪神の大学教員で、実際に大学の授業で使われていることを想定した教科書だ。しかし、一般読者が読んでも面白く、変わりつつある京阪神の姿を知る好著となっている。

 京阪神の概要、自然、歴史、工業、近代都市、現代都市、農業、エスニック集団、観光の9部構成でそれぞれいくつかの章から成っている。

 まず最も基礎的で重要なデータである人口について、1980年代以降、京阪神3都市の人口はほぼ横ばいで推移しているが、京都府、大阪府、兵庫県の人口は増加傾向が続いている、としている。ニュータウンの開発により、郊外で人口が増加する傾向が見られた。しかし、2010年から2015年にかけて近畿2府4県ではおよそ17万人減少しており、東京一極集中の影響が指摘されている。

 こうした事実は国勢調査などのたびに報道され、BOOKウォッチで紹介した『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』(講談社現代新書)など一般書でもふれているので、既知のことだろう。同書では、関西圏は三大都市圏の中で減少スピードが最も速く、下落傾向に歯止めがかからない。大阪市の人口を下支えしているのは外国人住民だ、と指摘している。

 それらを念頭に、本書の2つの人口分布図を見ると、さまざまなことを想像せずにはいられない。京都市と大阪市における専門・技術職従事者の分布だ。国勢調査から作成した。それぞれ中心部はいくらか密だが、周辺は薄く、濃い部分は少し離れたニュータウンなどに点在している。人々がうっすらと思っている社会階層の差が地図にくっきりと浮かび上がるのだ。

 この章を執筆した水田憲志・大手前大学史学研究所客員研究員は、「このような社会階層による居住地分布の形態はどのように説明できるのか」と問いを投げかけている。土地の起伏といった自然条件なのか、歴史的要因なのか、文化・歴史的側面があるのか。京阪神に住む人であれば、専門用語からもはや一般用語になった「インナーシティ問題」に頭をめぐらす人もいるだろう。水田氏は「地理的想像力を働かせて『なぜ』かを考えてもらいたい。次章以降の内容は、この問題を考える手がかりになるだろう」と書いている。

 本稿では9部構成すべてにふれることは出来ない。実際に神戸市と豊中市(大阪市に隣接)に居住したことのある評者の「住民」感覚から興味深いものを紹介したい。

 「第4部 工業」では、「第6章 松下電器からパナソニックへ」で、1980年代後半から始まった「東京シフト」について詳述している。1989年に国際財務部門が門真市の本社から東京支社に移転したのを皮切りに、1992年、マルチメディア開発の拠点だった情報通信システムセンター、2001年には宣伝・広報部門と東京移転が続いた。2000年以降、門真市の人口も減少。2008年には社名もパナソニックに変更した。「パナソニックはもはや家電製造を中心としておらず、また門真市や関西に必ずしも固執していないのである」と書いている。

 続く「第7章 家電生産のグローバルな立地変動」で、韓国、台湾、中国メーカーの成長とパナソニック、シャープなど関西メーカーの苦境を紹介している。

 「第5部 近代都市」では、「第5章 千里ニュータウンの開発」「第6章 神戸市の『山、海へ行く』」で取り上げられたニュータウン開発の歴史が、かつての住民として面白く読むことができた。

 「第6部 現代都市」では、東京一極集中、インナーシティの再開発、都心回帰、タワーマンションの展開、千里ニュータウンの再生、大学の郊外化と都心回帰、商店街からモールへ、とビビッドなテーマが取り上げられている。

 また「第8部 エスニック集団」では、在日コリアン社会の形成から中国、ベトナム、ブラジル、フィリピンの各エスニック集団にふれている。特に大阪市生野区のコリアンタウン、神戸市長田区の在日コリアンが経営するケミカルシューズ産業、在日コリアンが多く住む京都府宇治市のウトロ地区、兵庫県伊丹市の中村地区、神戸市中央区の華僑が住む南京町を取り上げ、歴史的経緯を説明している。

 本書を通読すると、決して地理は暗記科目ではなく、今を生きる人にとって有力なツールであることが分かるだろう。書店にはないかもしれないが、少し大きな図書館には置いてある可能性が高い。実際、評者も関東の公立図書館から借りてきた。関東の人にとって京阪神の今までのイメージを変える本になるかもしれない。なぜ「大阪都構想」が大阪で大きな支持を集めるのか、そのヒントも詰まっている。実際のところ、「地理」は、社会人になってから最も役立つ科目、と言われることが多い。仕事で何かを考えるとき、営業などで知り合った人と話すときに大いに力を発揮するからだ。

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