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殺人犯7人に面会しました

マンガ「獄中面会物語」

 BOOKウォッチの書評でマンガを取り上げるケースは少ない。もちろん優れたマンガはいくらでもあるし、評者もマンガを読まない訳ではない。しかし、マンガを紹介するメディアは他にたくさんあるので、BOOKウォッチとしては正直、視野の隅にあると言うべきだろう。

平成の事件史彩った面々に会った

 たまたま入手した本書『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)を読んで、ぶっとんだ。広島市在住のフリーライター、片岡健さんの『平成監獄面会記』(同)を原作とするマンガだが、片岡さんが7人の殺人犯に面会した模様が描かれている。その7人とは――。

 小泉毅 元厚生事務次官宅連続襲撃事件(平成20年) 「愛犬の仇討ち」で3人殺傷
 植松聖 相模原知的障害者施設殺傷事件(平成28年) 19人殺害は戦後最悪の記録
 高柳和也 兵庫2女性バラバラ殺害事件(平成17年) 警察の不手際も大問題に
 藤城康孝 加古川7人殺害事件(平成16年) 両隣の2家族を深夜に襲撃
 千葉祐太郎 石巻3人殺傷事件(平成22年) 裁判員裁判で初めて少年に死刑判決
 筧千佐子 関西連続青酸殺人事件(平成19~25年) 小説『後妻業』との酷似が話題に
 上田美由紀 鳥取連続不審死事件(平成16~21年) 太った女の周辺で6男性が次々に

 いずれも平成の世間をゆるがした著名な殺人事件の犯人として獄につながれ、死刑判決を受けた者もいる。

取材者の心をつかむ「後妻業」の筧千佐子

 マンガと活字本を比較する意味で、BOOKウォッチでも紹介した関西連続青酸殺人事件の筧千佐子・死刑囚の項から読み始めた。

 片岡さんが取材を始めたのは2017年11月7日、京都地裁の裁判員裁判で筧千佐子が死刑判決を受けた3日後だった。取材依頼の手紙を出した上で、京都拘置所まで行ったが、面会を断られた。それでも今後に望みをつなぐため、所内の売店で封筒や便せんなど手紙のやりとりに必要なものを買い、差し入れた。

 すると、後日、こんなハガキが届いた。

 「前略 面会断ったのに差入れして頂いて、ゴメンナサイ、感謝です
 私は、マスコミ嫌いなので、何かそんな風な人はあわない様にしてるのです
 こちらに来るついででOKです(交通費かかるので)立寄って下さい
 次回お会いします
 手ブラでね、気づかいなしで」

 文面から「いい人」そうな印象を受けた片岡さんは、さっそく面会に行った。髪の大部分が白く、「関西のどこにでもいそうな小柄なおばちゃんだな」と思った。

 死刑判決には「もう今さらどうのこうのないですね」「明日死刑になってもいいという気持ちです」と筧千佐子は答えた。

 その後も面会や手紙のやりとりが続いた。「本当にマジで心からお逢いしたいで~す 首を長くしておまちしておりま~す」とか「毎月使い切れないほど(笑う)年金もらってますので...(又笑う)健さんと近くだったらデートの時の費用、私が払うのに(笑)」といったハガキが届いた。

 片岡さんは「この筆まめさやてらいのない愛情表現により高齢男性たちを籠絡していたのだろう」と書いている。

 こうした感想は『筧千佐子 60回の告白』(朝日新聞出版)を書いた朝日新聞の安倍龍太郎記者や『人殺しの論理』(幻冬舎新書)の著者で、やはり筧千佐子に面会した小野一光氏も同様にもらしている。

 さて、本書はマンガなので、彼女がどう絵的に描かれているか説明すべきだろう。白髪の品の良さそうなおばあちゃんというのが評者の感想だ。

 片岡さんは「殺害した男性たちのことをにこやかに語る様子からは罪の意識がまったく感じられなかった」と思う一方、「だんだん悪人だとは思えなくなっていた」「悪人というより何か重篤な精神医学的な問題か心理学的な問題を抱えた人物なのではないかと思うようになった」と書いている。

 活字本では伝わらない雰囲気がマンガだと伝わってくる。

 他の6人についても著者の濃密な取材をもとに、これまであまり伝わってこなかった殺人犯の実像が紹介されている。

 死刑が確定すると面会や手紙のやりとりは事実上、出来なくなる。だから、片岡さんはニュースで気になる殺人犯を知ると、まずは取材依頼の手紙を本人宛に書く。巻末には「殺人犯たちと面会する方法」という特集も載っている。

 最初は、少し変わった「犯罪マニア」という偏った印象で読み始めたが、さにあらず。ここまで殺人犯に近づき、彼らの実像を伝えた本はないのではないだろうか、と評価を改めた。

 ちなみに、相模原知的障害者施設殺傷事件の植松聖は独自の差別意識を持っており、それは知的障害者への差別よりも、自分の容姿へのコンプレックスも含め、容姿の美しくない人間への差別意識の方が強いのでは、と書いている。彼が美しいと思うのは北朝鮮の最高指導者・金正恩だという。

 「脂肪のせいで邪悪になっちゃっていますが、あの人の遺伝子は凄く優れていると思うんです。美しい遺伝子だと思うんですよ」

 だから、どうということではないが、ここまで肉薄した片岡さんの取材に脱帽するしかない。作画の塚原洋一さんのリアルで端正な絵も内容の理解を助けている。

  • 書名 マンガ「獄中面会物語」
  • 監修・編集・著者名漫画 塚原洋一、原作 片岡健
  • 出版社名笠倉出版社
  • 出版年月日2019年9月15日
  • 定価本体690円+税
  • 判型・ページ数四六判・223ページ
  • ISBN9784773072204

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