東京新聞記者・望月衣塑子さんのノンフィクションを原案に、若手女性新聞記者と若手エリート官僚の対峙と葛藤を描いた映画『新聞記者』がこの夏(2019年)ヒットした。望月さんは社会部記者で、官房長官会見を仕切る政治部記者からは反感を買っているという報道は週刊誌などで何度も見た。
政治部記者の実態に迫りながら、一級のエンターテインメント小説に仕上がっているのが、本書『トップリーグ』(角川春樹事務所)だ。
「トップリーグ」とは、「総理大臣や官房長官、与党幹部に食い込んだごく一部の記者を指す」と本書にあるが、実際は著者・相場英雄さんの造語だ。あるネットでのインタビューに答え、本当は「トップグループ」ということを明かしている。
さて、本書のあらすじを簡単に紹介すると、こうなる。
大和新聞の松岡直樹は、入社15年目にして経済部から政治部に異動になり、官房長官会見での質問が官房長官の眼に止まり、官房長官番に抜擢される。一方、松岡と同期入社だった酒井祐治は、いまは大手出版社に移り、週刊誌のエース記者として活躍している。酒井が「都内の埋め立て地で発見された一億五千万円」の真相を追ううちに、昭和史に残る大疑獄事件との接点が浮かび上がる。政界の深い闇に切り込んだ、二人の記者の命運は......。
大疑獄事件は、ロッキード事件を模しているし、首相や官房長官もすぐにモデルが頭に浮かんでくる。テレビによく出てくる政治評論家も。
新聞記者を主人公にした小説は多いが、最近の作品の中では、ピカ一の迫力とノンフィクションに近い再現力がある。相場さんは時事通信の元記者で、BSE問題を題材にした『震える牛』などの著書がある。新聞記者の生態には詳しい訳だ。
先にふれたインタビューで政治部記者について、こう語っている。
「政治が奇麗なわけがない。例えば新聞社の中で社会部と経済部は仲が悪いけど相手を知っています。でも政治部は伏魔殿。何をやっているかわからない」
評者はかつて在籍した新聞社の元幹部が亡くなった際、「書かざる大記者」と社内報で紹介されたことを思い出した。ある首相の信頼が厚く、寝室までも出入りご免だったという逸話が残っていた。並みの政治部記者なら、応接間はおろか玄関払いが関の山だ。
記事を書かずとも評価されたのは、要所で入ってくる情報が政局の見立てをリードしたからだろう。あとは「癒着」した相手が出世して首相まで上り詰めたということだ。逆に「先生」が失脚すると、記者生命が絶たれることもある。華やかに見えて死屍累々なのが、政治部記者の世界でもある。
本書は角川春樹事務所のPR誌「ランティエ」に、2017年1月から7月まで連載されたものに大幅に加筆・修正、一部は書き下ろした。今般の官房長官会見をめぐる問題を先取りしていたと言えよう。
ちなみに、玉山鉄二主演で10月にWOWOWで6回シリーズでテレビドラマ化される。
本欄では、新聞記者関連で、望月さんの共著『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社)、『記者襲撃――赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)などを紹介済みだ。
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