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千葉愛があふれる名球会入りした強打者の半生

習志野が生んだ野球小僧

 今年も高校野球の各都道府県大会が終わり、甲子園に進む代表校が決まったところだ。岩手県大会の決勝では超高校級163キロの球速をもつ大船渡高校の佐々木朗希投手が登板せず敗退したことで、各方面から賛否の声があがった。だが、甲子園に行かなくてもプロ野球で大成した選手は数多い。

県大会3回戦負けでドラフト7位指名

 本書『習志野が生んだ野球小僧』(コスミック出版)の著者、千葉ロッテマリーンズの福浦和也さんもその一人だ。

 福浦さんは、パリーグを代表する強打者で2018年に2000本安打を達成し、名球会入りを果たした。2019年、今シーズン限りでの引退を発表、千葉ロッテマリーンズひと筋に26年歩んできた、その野球人生を振り返った本だ。

 タイトルに「習志野」とあるように、母校、千葉県の習志野市立習志野高校への強い思いが書かれている。習志野高校は2019年の選抜高校野球大会で準優勝し、この夏も甲子園出場を決めた強豪校として知られる。谷沢健一さん(中日)、掛布雅之さん(阪神)、小川淳司さん(ヤクルト、日本ハム)らプロ野球で活躍した名選手を数多く輩出している。全国大会に何度も出場している吹奏楽部も有名で、甲子園では「美爆音」の応援で話題になった。

 習志野市の中学の野球部でもエースで4番だった福浦さんは、家から近い習志野高校への進学を希望したが、ひとつ大きな問題があった。合格できる学力がなかったのだ。そこで中学の野球部の監督に言われるままに習志野高校の寮を訪ね、先輩たちに勉強を見てもらったという。合格してからは野球漬けの日々を送った。

 高校でもエースで4番だったが、最後の夏の千葉県大会ではあっけなく3回戦負け。敬遠のサインが出ていたのに、ストライクを投げ痛打されたのが敗因だった。

 練習中に複数のプロ野球チームスカウトがスピードガンで球速を測りに来ていたので、「プロに行けるかも」という思いはあったが、3回選負けという結果に夢は消えかけていた。ドラフト当日、千葉ロッテマリーンズが7位で最後に指名した。

入団直後にケガで打者転向

 なんとか入団したものの、すぐに肩とひじを痛め、投球も出来ない日々を送る。そんな時に山本功児・二軍打撃コーチに打者への転向を勧められる。そのたびに断っていたが、醍醐猛夫・二軍監督に「バットを5本プレゼントしてやる」と言われ、「じゃあやります」と答えたのが決め手となった。

 打撃練習はもちろん、守備や走塁の練習もそれまであまりやったことがなかったが、ひたすら練習を重ねた。「1日のうちの起きている時間はほとんど練習に割かれていました」。3年目までは二軍で浮き沈みしていたが、4年目に転機が来た。ある日、いきなり一軍を告げられ球場に入るとスタメンだという。2打席目にプロ入り初ヒット、次の試合でも代打でヒット。運がよく一軍に定着できたと振り返る。

 5年目に背番号が70から9に代わり、レギュラーに定着し、打率2割8分4厘という好成績を残すが、チームはプロ野球記録となる18連敗を喫する。しかし、連敗のおかげでファンが増えたという効果もあったという。

 8年目の2001年には「振ればヒットの状態」で首位打者を獲得。2005年には31年ぶりのリーグ優勝、そして阪神を破り、日本一に輝く。また2010年にはチームは「史上最大の下剋上」を達成する。3位からクライマックスシリーズを勝ち抜き、日本シリーズに進出、中日を下し、日本一になる。

 こうした個人成績、チーム成績を中心に第3章、4章は綴られるが、第5章「福浦和也とは何者なのか」が自分自身を分析し、興味深い。性格はとにかくマイペース。バッティングフォームの「物真似」をひんぱんにしてきたそうだ。似せるのは打席に入った時の「構え」まで。スイングは自分自身染み込んだものを変えることは出来ないという。

イチローからもアドバイスもらう

 物真似に飽き足らず、他球団の選手に打撃の話を聞きに行くことも多かった。打席に入った時の意識の仕方、構えた時のバットの位置、球の待ち方、体の使い方の意識などだという。イチロー、小笠原道大ら名選手が親切かつていねいに話してくれたと感謝している。

 ナンバーワンの選手はやはりイチローだという。一度会食した時に「バッティングの際に胸だけは最後までピッチャーに見せるな」という言葉をかけてもらった。「ギリギリまでバットを残せ」という意味だと理解している。ライバルにも教えを乞う熱心さ、そして答えてもらえる人間力。そうしたことが福浦さんを打者として大成させたのだろう。

 福浦さんは今年、選手のかたわら二軍打撃コーチを務めている。「どうしたら強くバットを振れるか」を若手に考えさせているという。どうしたら自分の中の最大飛距離を出せるか体に覚えさせるのだ。

 本書は随所に千葉や習志野への愛が書かれている。「何よりも落ち着く場所。それが千葉であり、習志野です」と。

 千葉市民の評者としても、甲子園での習志野高校の活躍と千葉ロッテマリーンズの優勝を祈るばかりだ。

 本欄ではプロ野球関連として、『イチローの功と罪』 (宝島社新書)、『証言 イチロー 「孤高の天才」の素顔と生き様』(宝島社)を紹介済みだ。

  • 書名 習志野が生んだ野球小僧
  • 監修・編集・著者名福浦和也 著
  • 出版社名コスミック出版
  • 出版年月日2019年8月 1日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・221ページ
  • ISBN9784774791906

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