読むべき本、見逃していない?

競輪ファンは「熟女がお好き」・・・

  • 書名 旅打ちグルメ放浪記
  • サブタイトル令和元年 競輪全43場
  • 監修・編集・著者名峯田淳 著
  • 出版社名徳間書店
  • 出版年月日2019年6月26日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784198648787

 「放浪記」と言えば林芙美子以来、どうしてもちょっと人生を踏み外した感じがある。阿佐田哲也の『麻雀放浪記』や、このところ大人気の吉田類の『酒場放浪記』などでもその匂いがする。寺山修司には『競馬放浪記』もある。

 本書『旅打ちグルメ放浪記』(徳間書店)の主題は競輪だ。競馬よりもさらにディープな感じがする。

的中率は3割強

 「競輪全43場」という副題が付いている。一年かけて毎週のように日本列島にある競輪場を北から南までさすらい、その戦績や、そこでの飲み食いについてまとめたエッセイだ。22万円を当てた話も出て来るが、車券が紙くずになる話が多い。

 筆者の峯田淳さんは1959年生まれ。埼玉大卒。フリーランスを経て89年、日刊現代入社。芸能文化編集部長を経て編集委員。競輪歴40年、競輪記者歴35年。著書に、日刊ゲンダイでの連載をまとめた『完全保存版 THE芸能スキャンダル!』(徳間書店)、同じく『おふくろメシ』(TWJ)がある。

 まずはその戦績。570レースで的中185レース。打率3割2分。これが野球の打率なら立派なものだが、ギャンブルの世界は厳しい。賭け金378万円で、払戻しが302万円。回収率は80%にとどまる。なんだ、プロのくせに損をしているのか――といわれるであろうことを見透かしてご本人いわく。

 「興味のない人から見れば、とてつもない無駄だろう。だが、誰にも邪魔されることなく、現実と妄想の中でよろこび、悔しさを噛みしめることができた。負けても一杯ひっかければ一時間前のことが楽しい出来事になった。実におめでたい」

 本書に出てくる「グルメ」は、アジフライとか、カレーうどんとか、トンテキとか、素朴なものが多い。あまりくどくど能書きを垂れない。場内や近隣でビールを飲みながら手軽に済ませる感じだ。あくまで主題は「競輪」なのだ。

大穴を取った客は・・・

 「競輪場」には独特の雰囲気がある。評者は大昔の学生時代、首都圏の競輪場で時折アルバイト警備員をしていたことがあるから、その雰囲気を多少は知っている。本書に登場する伊東、静岡、小田原などの競輪場にはおぼろげな記憶がある。当時住んでいた大学寮に、ガードマン会社の迎えのマイクロバスが来て、金欠の学生たちが乗り込み、高速道路を速度オーバーで突っ走って目的の競輪場にたどり着く。青白き学生たちも、制服制帽に着替えれば立派な警備員。万一、暴動が起きたら、制服を脱ぎ捨てて逃げろと教えられた。

 そこに集まるファンたちの姿は、おおむね想像通りだった。今でも覚えているのは、換金風景だ。普通はレースとレースの間の時間帯に、換金所で当たり券を現金に換えるのだが、大穴を取った人は、次のレースが始まって、換金所に他の客がいなくなったころを見計らってやってくる。100万円を超える当たり券を持つ客を見たことがあるが、「端数はいらないから急いでくれ」と交換所の女性を急きたてる。万札を懐に入れると即座に立ち去った。大当たりをしたことを仲間に知られたくなかったようだ。

 その後、競馬場にも行ったことがあるが、競輪場とはやや雰囲気が違った。何となく明るい。馬自体がつやつやしていて躍動感があるし、背広にネクタイの客や若い女性ファンも多い。それに比べると、競輪場は・・・。あくまで大昔の知識で恐縮だが、別の意味で競輪場には人を引き付ける魅力があることも確かだ。著者は書いている。「競輪ファンは熟女が好きなようで」。人生の酸いも甘いも噛み締めた「玄人」が集まるところ、ということか。

競輪好きの有名人

 本書にも登場するが、昭和を代表する伝説の棋士の藤沢秀行さんは大の競輪ファンだった。著者自身、東京・京王閣競輪場で藤沢さんが車券を買っている姿を何度か見かけたという。

 「背中を丸めた小さな体に、ショルダーバッグを提げ、静かに窓口に手を突っ込んでいた。一点勝負で大儲けをしたり、有り金勝負をして借金したり、数知れない武勇伝の持ち主だったが、その様子に豪放さは微塵も感じられなかった。傑物とは、かくありや」

 「木枯し紋次郎」で人気だった中村敦夫さんも大の競輪好き。本書では、日刊ゲンダイが初めて催した競輪ファンとのバスツアーに中村さんがゲストとして参加した時の話も出て来る。「ニヒルな渡世人」は現実の世界でも全国の競輪場をさすらい、勝負しているらしい。

 今や競馬については、普通のサラリーマンが会社でも話題にしている。ところが、競輪となると、余り耳にしない。実は競輪には読売新聞社杯、高松宮記念杯競輪、朝日新聞社杯などもあるのだが、どうもまだ世間一般での認知度は低く、完全に「市民権」を得ているとはいいがたい。同じ公営ギャンブルでも、競馬との間には見えない境界線がある。

 逆に言えば、この素人には近づきづらいディープさこそが、競輪ファンにとってはたまらないのだろう。本書にはそんな競輪の甘酸っぱい、どちらかといえば酸っぱい魅力にとりつかれた著者の、競輪愛が詰まっている。

 本欄では放浪関連で『出版街放浪記』(展望社)、『夜の放浪記』(こぶし書房)なども紹介している。

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