読むべき本、見逃していない?

オーディオ評論家が書かない科学的なオーディオの話

  • 書名 実用オーディオ学
  • サブタイトルその常識は本当か これだけは知っておきたい
  • 監修・編集・著者名岡野邦彦 著
  • 出版社名コロナ社
  • 出版年月日2019年1月25日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数A5判・144ページ
  • ISBN9784339009194

 ハイレゾ時代真っただ中、CD音源はもう古い......。アンプやCDプレイヤーなどオーディオ機器は全部、アースをとっておいた方が良い......。オーディオファンの間で半ば当たり前とされている常識の多くは間違いなのだそうだ。

 本書『実用オーディオ学』(コロナ社)は、そうした常識を、この世界にありがちな「主観的な印象」ではなく、サイエンスと工学の視点から点検。デジタルオーディオのメカニズムや、分かり切ったことと疎かにされている機器の接続方法も解説する。

天体写真家としても知られる

 著者の岡野邦彦さんは、東京大大学院で原子力工学を専攻した工学博士で、現在は慶応大理工学部の教授。プリンストン大でプラズマが発する高周波の周波数分析に携わったこともあり、これはデジタルオーディオ技術に関連する。少年時代からのオーディオファンだ。天体写真家としても知られる。

 気になる常識の点検に入る前に、CDの音の記録方式について復習しておく。まずアナログの音。日常聴く人の声などは、それぞれ独立した物から出る音だ。それらが耳に入る時は連続の疎密波として一体になっている。これを脳が、高低(振動数)、大きさ(振幅)、方向(チャンネル=左右)の成分に処理して人の声や物音として聴いている。

 CDの場合は、絶対音感のある人が物音をピアノで再現するのに似ている。高低や大きさ、長さを88鍵(27.5Hz~4186Hz)に移す訳だ。アナログとピアノでの再現、どこが異なるのか。連続音が切れ切れの音の集まりに変わっていることに注意したい。CDなどデジタル工学では、このプロセスを離散化と呼んでいる。

 もっと強力なピアノマシンを考える。人間の可聴域(20Hz~20,000Hz)までカバーする500程度のキーを持つピアノだ。指はキーと同じ数だけあり、音の大きさは微細に調節、猛スピードでの打鍵もできる。音の大きさは、無音から最大音まで6万5536段階(16bit=216)、打鍵は1秒間に4万4100回(44.1kHz)――そんなピアノマシンだ。

 「bit」はこの分野では「量子化ビット深度」(振幅軸での値)、「kHz」は音の周波数ではなく「サンプリングレート」(時間軸での標本化頻度)を指す。ともに数値が大きくなるほど、データがきめ細かになる。例えば「24 bit、88.2kHz」なら、情報量は、大小の調節が216段階から224段階に増え、打鍵回数は2倍となる。ここでは触れなかったが、音の長さは同一キーを連打する回数で説明、音の方向は複数のピアノを用意することで説明がつく。

 88鍵では人の声や爆発音は再現できない。が、「16bit、44.1kHz」のピアノマシンならば可能かもしれない、と思う。事実、これを動かすデータこそが、CDに収められている。

解決に2通りの方法

 こうした技術の根底にあるのは、フーリエ変換だ。どんな関数(音楽も関数と見ることができる)も三角関数の重ね合わせで表せる、という理論だ。重ね合わせる前の1本ずつの三角関数は、ここでは1個のキーに当たる。それぞれのキーは特定の周波数と振幅を持った三角関数なのだ。

 デジタルでの録音再生には以上のような知識が基本になっている。そこで本題のCDは時代遅れなのかどうかの問題。時代遅れな部分は確かにある。最も目に付くのは、サンプリングレートの低さだ。この欠点は、10kHz(概ねD#9=レ#の音)から上で顕著になる。原音のサイン波と離散化した音データがかけ離れてくるのだそうだ。

 10kHzくらいなら、なんとか元のサイン波の波形が再現できているように見えるが精度が高いとは言いにくい......20kHzになると振幅さえもふらついている......この振幅の揺らぎは(評者註:周期的になるため)可聴域で起こっており音の変化としてきこえる......

 と明快だ。こうした高音部での問題は、シンバルやトライアングルの音が揺らいで聴こえることにつながる。

 解決には2通りの方法がある。1つはサンプリングレートのアップ。「96 kHz以上になれば、波形の再現性は急速に良くなる」そうだ。ハイレゾでは96 kHzはおろか192 kHz、384 kHzまで高めたデータもある。サンプリングレートを高くすると再現時の電流制御が容易になる利点もあるようだ。

 もう1つは、データはそのままで修正を掛ける方法だ。これは「原理的には再現可能なはずだが、複雑な計算が必要だ」という。離散化はた易いが、復元の演算は難しいのだ。

CD再生は「今後も改善される」

 CDが登場したのは1980年だった。それよりも4年遅れで登場したアップル社製パソコンの演算装置は動作周波数が8MHz。現在3.5GHz程度になっている。しかし、復元の演算はなお複雑で、現在の装置でも能力不足なのだそうだ。「プレイヤーが新しく発売されるたびに、再生音が良くなっているのには、こうした事情がある」ためだ。CD再生は「今後も改善される」と岡野さんは見ている。CDをたくさん持っていることは無駄ではなかった。

 このほか、CDでは「読み取りエラーや伝送エラーが頻発している」という常識も否定されている。CDの盤面がきれいな場合、「エラーは数カ月の連続再生で1回以下のレベルだと見られる」という。エラー訂正のシステムが非常に巧みに作られているからだ。このエラー訂正の仕組みの解説は分かりやすいし、おもしろい。なおざりにされがちなアースも重要なポイントだ。本書では真っ先に扱われている。

 オーディオファンは、このところ増えてきた、といわれる。中国製の高性能機器が低価格で販売されるようになったからだ。100ワット、200ワットのアンプは数十万円もする時代が長かったが、今では1万円ほどで手に入る。それも高音質だ。ヘッドホンで聴くスタイルも普及した。半田ごてを使わずに、部品を差し替えるだけで音を好みに合わせることもできるそうだ。

 オーディオの世界では、オカルトじみた理論がまかり通る時代があった。オーディオをすっきりとした気分で楽しみたい人に、本書は参考になるはずだ。

 岡野さんには、『SUPERサイエンス 人類の未来を変える核融合エネルギー』(シーアンドアール研究所、共著)、『冷却CCDカメラ テクニック講座』(誠文堂新光社)などがある。

BOOKウォッチ編集部 森永流)

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