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名探偵・御手洗潔シリーズ50作目は遊び心いっぱい

屋上

 本格派ミステリーの旗手、島田荘司さんの作品に登場する名探偵と言えば、御手洗潔である。本書『屋上』(講談社文庫)は、御手洗潔シリーズの50作目となる記念碑的作品だ。

盆栽作家の死

 いささか変わったプロローグで始まる。新進気鋭の盆栽作家、安住淳太郎が出品したグループ展が銀座の老舗画廊で開かれていた。業界のドン、彦田徹の押しがあればこそ実現した展覧会だった。

 安住は自分の作品を中国風に「盆景」と呼び、植物だけでなく小さな人形を配する独特の作風で知られた。人形の多くは映画スター、大室礼子の風貌に似ていた。ある作品に彦田は激怒する。木こりの人形が松の木を切り倒そうとする作品だった。

 彦田は安住の頭をげんこつで叩いた。彦田の顔を知らなかった安住は反撃し、彦田を骨折させてしまう。入院した彦田が亡くなるに及び、安住は世間からも指弾され、行き詰まり、自作で予告した通り、松の木に首を吊って死んでしまう。

 これが何かのたたりを呼んだのか、安住の作品を買い取った大室礼子は自殺。次に引き取ろうとした博物館長は心不全で急逝する。安住の盆栽群は抵当に入っていたため、ある銀行の支店ビルの屋上に置かれていた。そして、ここからさらに悲劇の連鎖が始まる。

銀行ビル屋上で悲劇の連鎖

 盆栽の水やりをしようとした女子行員が屋上から転落して死ぬ。彼女は年下のイケメン青年と結婚する予定だと言っていたので自殺の可能性は少なかった。しかし状況から誰かに突き落とされたとも思えなかった。

 次に水やりを任された男子行員、さらにもう一人と、同様に転落死する。これは超常現象なのか、誰かが陰で糸を引いているのか、警察もさじを投げかけたところに御手洗が登場する。

 ここでは明かせないが、本書は明朝体の本文に違うフォント(字体)の断章がいくつも挿入される形で書かれている。あまりに突拍子なので、どういうことなのか訳も分からず、読み進むしかない。最後に御手洗が解決しても評者は頭を抱えるばかりだった。

 舞台が銀行に移り最初に亡くなる女子行員の大阪弁が次第に周囲にもうつるとか、グリコを連想させる、あるお菓子の看板が何度も描写されるなど、どこか「変調」の兆しが感じられる小説だ。

 作家生活35年目の記念碑的な作品で、こうした遊びが出来るのだから、島田さんの作家魂はすごい。

 本書は2016年に刊行された『屋上の道化たち』(講談社)を改題、文庫化したもの。

 本欄では島田さんの『幻肢』(文藝春秋)も紹介している。

  • 書名 屋上
  • 監修・編集・著者名島田荘司 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年2月15日
  • 定価本体980円+税
  • 判型・ページ数文庫判・548ページ
  • ISBN9784065143049
 

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