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東京はモンスター、脱皮をくり返す巨大な生命体だ

江戸東京散歩

 プロの写真家として活躍しつつ、多数の写真関係の本も出している鷹野晃さんの最新刊が本書『江戸東京散歩』(株式会社KADOKAWA)だ。江戸時代から現代にいたる東京の姿を浮世絵なども参照しながら辿っている。

 鷹野さんは1960年生まれ。主に雑誌などで人物ポートレート、旅の写真などを撮影。ライフワークとして東京を独自の視点で撮り続けている。

浮世絵作品から40点ほどを選びだす

 本書を通読して改めて痛感するのは「江戸=東京」の大変貌ぶりだ。鷹野さんは、「いつもどこかで普請中の東京は、永遠に未完成の都である。変わり続けることが宿命のように再開発という脱皮をくり返す巨大生命体のような東京」という美文調のテーゼで本書を書き始める。まさにその通りだと誰もが納得するだろう。

 永遠に建築中の建物と言えば、バルセロナのサグラダファミリアが有名だが、あれは一つの完成形に向かって進んでいる。ところが、東京は、最終目標なきまま、脱皮をくり返す。鷹野さんはこうも呟く。

「周囲の景観との調和など考えていないような建築物を見ると、東京は一体どこへ向かっているのだろう、と感じながらそこに生まれる混沌こそが大きな魅力なのだと改めて思うのである」

 古い写真や地図と現代の景観を比較する本はすでに多々ある。鷹野さん自身も『東京100年散歩』(海竜社)を刊行済みだ。類書との違いは、まだ写真がなかった時代の江戸を描き残した歌川広重の『名所江戸百景』などを重視、参考にしていることだ。浮世絵作品から40点ほどを選びだし、現在の場所を特定しながら、できる限り定点撮影を試みたというのが売りだ。

家康も仰天

 「あとがき」で本書をつくりながら見た夢のことが掲載されている。なぜか徳川家康と歌川広重、後藤新平、そして鷹野さんが、大型ドローンのような飛行物に乗って空から東京を眺めている。江戸城を築いた家康。江戸百景を描いた広重。関東大地震後の東京復興に尽力した後藤。それぞれ江戸=東京の変容ぶりに仰天する。鷹野さんが「町も人も変わりましたが、富士山だけは変わりません」というと、3人が頷く。

 皇居前広場に到着すると、家康が言い残した。「大震災は必ずやってくる。備えておきなさい」。そこで鷹野さんの目が覚める。

 本書では明治維新直後の猛烈な建築ラッシュが特に記憶に残った。1863年、呉服商の大店が並ぶ現在の銀座(当時は尾張町)をのし歩いていたのは上洛する14代将軍の行列。市中の人びとは地べたに正座しながら頭を低くして見送っている。

 その10年後の明治6年の銀座通りは、木造家屋が消えてロンドンのリージェント・ストリートを手本にした煉瓦街に様変わりしていた。人力車があふれ、コウモリ傘をステッキ代わりに歩く人がいる。中国共産党もびっくりするような大規模な都市改造だ。全く別の国になっている。150年前の明治維新のドラスティックさを、銀座の大変容を通して再確認できる。戦後の東京も相当変わったが、その比ではないと痛感した。

 関連して本欄では『写真のなかの江戸――絵図と古地図で読み解く20の都市風景』(ユウブックス)、『みる・よむ・あるく 東京の歴史 6』(吉川弘文館)、『レンズが撮らえた幕末維新の日本』(山川出版社)、『江戸・東京色街入門』(実業之日本社)、『昭和の東京 5 中央区』(デコ)なども紹介している。

  • 書名 江戸東京散歩
  • サブタイトル浮世絵と写真で歩く
  • 監修・編集・著者名鷹野晃 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年3月23日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数A5判・160ページ
  • ISBN9784044004415
 

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