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いまの日本に生まれた若者は幸せだ!

人生は攻略できる

 新書大賞2017を受賞した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)の著者、橘玲さんは、見た目や遺伝子、環境で人生は決まるなど、あまり人には言えないことをずばり書いたことでブレークした作家だ。今年に入って続篇の『もっと言ってはいけない』(同)が出て、こちらもよく売れているようだ。同書から目についた見出しを抜粋すると、こうだ。

・それでも日本人は先進国でトップクラス
・知能の高い人が低い人から搾取する社会
・知識社会で生き抜くための知能のハードルは上昇中
・知識社会に対応できるのは全体の一割
・高年収をもたらす性格がある

 これら2冊が大人や社会人向けだとすると、本書『人生は攻略できる』(ポプラ社)は、これから人生という大海に漕ぎ出す大学生や高校生に向けた人生戦略の指南書ということになる。

人生ゲームの約束事が変わった

 著者は最初に「いま人生ゲームの約束事が大きく変わりつつある」と警告する。テクノロジーの発達によってゲームのルールが書き換えられているからだ。そこでどんな時代になっても通用する基本を説いている。幸福な人生の土台は次の3つだ。

1 お金(金融資本)
2 仕事(人的資本)
3 愛情・友情(社会資本)

 それぞれ具体的なアドバイスをしている。その中で評者の腹にすっと入ったいくつかを紹介しよう。

 「生涯共働き」は最強の人生設計、と書いている。夫1人が定年まで働いて、60歳で退職して年金生活する家計と比べて「生涯共働き」をすると、80歳までに計1億4000万円の超過収入を得ることができる(夫は60歳から年収300万円の仕事を20年続ける、妻は40歳からパートか非正規の仕事で年収200万円の仕事を40年続けるという前提)。ゼロと1億4000万円だ。まして「人生100年時代」が視野に入っているいま、専業主婦という選択肢はないと考えた方がいい。

 「お金が大事なのは、お金から自由になれるから」という著者のことばの意味は、若いうちはなかなか分からないかもしれない。評者のような定年世代になって身に沁みても遅いのである。

スペシャリストをめざせ

 仕事にかんするものでは、「AI時代には男女の平均収入が逆転する」というものがあった。AIでは代替できない看護や介護の仕事では患者や顧客への共感力が求められ、女性の方が高い。アメリカではすでに男性と女性の平均収入が逆転したという。

 日本のサラリーマンは伽藍に閉じ込められた存在で、いつまでも会社にしがみつくのは愚かだとし、定年のないスペシャリストをめざせ、と檄をとばす。

 そしてこう総括する。

人的資本は「好きなこと・得意なこと」に一極集中する。金融資本はグローバルマーケットに分散投資する(借金を背負って「マイホーム」という不動産に一極集中させない)。社会資本は小さな愛情空間・友情空間と、広大な貨幣空間のネットワークに分割する。

 最後に橘さんは若者をこうエンカレッジする。

「君はすでに、『人類史上もっともゆたかないまの日本に生まれた』という大きな幸運を手にしているし、少子高齢化の日本では若者はますます希少になるのだから。君たちの未来は明るい。必要なのはちょっとした勇気だ」。

 今年の東大入試で経済学部に進学する文科2類の合格最低点が法学部に進む文科1類のそれを初めて上回った、と話題になった。官僚や法律家よりもコンサルタントや企業に入る方が魅力的だと高校生の眼に映ったということだろう。人生ゲームのルールが変わったことに若者がひと一倍敏感なのかもしれない。

 本欄では若者の生き方について堀江貴文さんと落合陽一さんの共著『10年後の仕事図鑑』(SBクリエイティブ)を紹介している。堀江さんも「趣味を仕事にしろ」と書いている。橘さんの自伝的著書『80`sエイティーズ』(太田出版)も紹介済みだ。橘さんがどんな青春をくぐり抜けて現在の境地に至ったか、興味深く読めるだろう。   

  • 書名 人生は攻略できる
  • 監修・編集・著者名橘玲 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2019年3月 6日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・270ページ
  • ISBN9784591159651
 

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