橘玲氏は、昨年(2017年)出した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮選書)が40万部を超えるベストセラーになり新書大賞2017を受賞、ブレークした作家である。見た目や遺伝子、環境で人生は決まるなど、あまり口にはできないが多くの人がうすうす感じていることをずばり書いたのがヒットの理由だろう。
デビュー作は国際金融小説『マネーロンダリング』だから、金融機関で働いた経歴の方かと思っていたが、本書『80`sエイティーズ』(太田出版)を読んで驚いた。小さな出版社でキャリアを始め、その後フリーランスの編集者としていくつもの雑誌の編集長を務め、とりわけオウム真理教に太いパイプを持っていたことを明かしているのだ。
副題にある通り、80年代に学生生活を送り、就職した若者の物語だ。バブルに突入してゆく時代の熱気とその後の顛末が描かれている。まだそれほど有名ではない人の自伝的ノンフィクションだが、3月1日(2018年)発売の週刊文春、週刊新潮がともに書評で取り上げるなど注目されている。
紹介したいエピソードが山ほどある。早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業し、最初に入った東京・新橋の社員数人の出版社は強者ぞろいだった。先輩が日本で初めての海外宝くじ専門誌を立ち上げ、読者から購入代行した。現金が山ほど書留封筒で送られ、大金が集まったが、大蔵省から法律違反を指摘され、あっさり事業は中止になった。
会社をやめて友人3人と編集プロダクションの会社を作り、ティーンズ雑誌の制作を請け負った。会社に泊まり込む日々。雑誌は小中学生に悪影響を与えると国会でも問題になり、発行中止になった。
そしてオウム真理教については『別冊宝島』などでディープに取材し、雑誌は格好のネタ元としてメディアに重宝されたという。学生時代に隣にいたような人がオウム真理教に入っていたという著者の実感は、80年代に青春を送ったものに共通するものだろう。「精神世界」に興味を持てば、書店の本棚にずらりと並んだオウム真理教団の本を手にするのは自然なことだった。
その後、最初に入った出版社の社長と先輩は成功と失敗を繰り返していた。あとがきで著者は「バカな頃がいちばん面白かった。だけど、ひとはいつまでもバカではいられない。そういうことなのだろう」と書いている。
編集者としてのさまざまな経験が、タブーを恐れない作家としてのスタンスにつながっているのだろう。
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