現在69歳の作家橋本治さんが68歳のときに、30年後の近未来になったらという依頼で書きだしたのが本書『九十八歳になった私』(講談社)である。
「毎朝起きるとロボットになっている」とか「一体今日は、いつなんだろう」とか(あ、またプテラノドンがやって来た)など、とりとめのない文章がつづくが、しょうがない。なんといっても98歳なのだ。作家はなんとかして98歳の自分を想定して、混沌とした内容の短編を書き進める。
途中からプテラノドンがやたらと登場し、自衛隊が出動してプテラノドンを駆除するというSFのような話が出てきたり、戦後教室が不足して小学校でも二部授業が行われたという蘊蓄が披露されたり、時間も話題も融通無碍の世界が展開する。
「白紙の巻」でまるまる2ページが白紙の章もある。著者が原稿を落としたのか、故意にそうしたかは分からない。
最後の方では「死にそうでなぜ死なないの巻」も登場する。内容は支離滅裂なのだが、やはり「考える人」橋本治さんである。「年取ってわけの分からないことを言うと哲学的に見えてしまうのは、落書きを『アートだ』と言うとアートになってしまうのと同じだろうな」とか断片的には思考の痕跡が残る。
橋本さんと言えば、女子高生が主人公の『桃尻娘』で1977年、鮮烈にデビューしたことで知られる。主人公になりきるのが得意な訳だが、98歳の老人になりきるのは見ていて辛いものもある。「絶筆 (自分で絶筆って書くバカもねェな)」という結びには笑ってしまったが。
あとがきによると、当初、最初の一作だけだったはずが、連載になってしまったという。早くやめたかったのだが、「一冊の本にしたいので、もう少し」と懇願され、「もう少し生きて」みたというのだ。「生きるのは大変なんだから」と。この人が書くと「朦朧文学」も笑いになる。
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