医学が進歩すると、いろいろと新しい事態に直面する。出生前診断というのも、その一つだろう。赤ちゃんが生まれる前に、遺伝子など胎児の状態を調べる。
本書『出生前診断 受ける受けない誰が決めるの?』(生活書院)は、そうした新しい事態にどう対応すべきか、医療関係者が悩みながら取り組んだ報告書だ。執筆に8人が参画しており、幅広い目配りがされている。
出生前診断とはどういうものなのか。どれぐらいの人が関心を持ち、経験しているのか? さまざまなデータがあるが、BOOKウォッチ編集部が手近なところで知り合いの若いママさんに聞いてみた。それによると――。
・妊娠が判明し2か月ごろのときに、病院で、出生前診断というものを受けることができるという説明を受けた。特に勧められたわけではない。
・友達の間では、話題になったことがない。というか話題にしにくい。結果がどうだったとか、言いにくいし、聞きにくい話。
・特別に高齢出産とか、そういう人には関心があるかもしれない。
・ネットを見ると、経験者の話が出ている。ダウン症の確率は非常に低いと言われて産んだら、自閉症だったとか・・・。ダウン症でも分かるのは一部らしい。
・NHKの特集だったと思うが、日本とドイツなどでは受け止め方が違うという番組を見た記憶がある。
ざっとこんな感じだった。出生前診断というものが、必ずしも市民権を得て、大手を振っているものではないようだという感じが分かった。
本書は冒頭で、「妊娠血液でダウン症診断 精度99%」という2012年8月29日付けの読売新聞の記事が紹介されている。素晴らしい記事というのではない。母体の血液検査だけで、お腹の赤ちゃんがダウン症候群かどうか、正確にわかるという印象を受ける記事に「衝撃が走った」というのだ。
そう書いているのは素人ではない。本書の主要執筆者の一人で、聖路加国際病院遺伝診療部長兼女性総合診療部医長の山中美智子さん。検査が持つ問題点を無視して「精度99%」が独り歩きしかねない。そう思った山中さんはその年の暮れから、内外の専門家を交えて仲間で勉強会を連続的に開いた。その報告書が本書だ。「技術ばかりが進展する出生前診断とどう向き合うかを、立ち止まって考える」ということを旨としている。
聖路加国際病院というのはあの日野原重明さんの病院であり、行ったことがある人ならだれでも痛感するが、普通の病院とはちょっと違う感じがある。院内のあちこちに勉強会のスケジュールが告知されているのだ。医者や看護師が勉強熱心な病院だなという印象がある。もう一つは、カウンターに外国人向けの通訳がたくさん待機していること。田舎の病院に慣れた人が訪れると、驚くに違いない。
本書の内容は、簡単に論評できるものではないが、そういう病院の関係者が軸になって作った本だということだけはお伝えしておきたい。企画編集協力として「聖路加国際病院遺伝診療部」の名前も入っている。8人の執筆者の中には、医師以外でも法律家や生命倫理研究者、NHKで関係の番組を担当し、『ルポルタージュ出生前診断―生命誕生の現場に何が起きているのか? 』などの著書がある坂井律子さんらも入っている。
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