本書『神様のスイッチ』(講談社タイガ)は、藤石波矢さんの10作目となる作品。藤石さんは1988年栃木県生まれ。2013年に『初恋は坂道の先へ』でダ・ヴィンチ「本の物語」大賞を受賞し、デビュー。本書の著者紹介には「軽妙なセリフ廻しと卓抜した物語構成が持ち味。エンターテインメント小説の未来を担う注目の新星」とある。別作品の『今からあなたを脅迫します』シリーズは、ディーン・フジオカ、武井咲主演ですでにテレビドラマ化されている。
『神様のスイッチ』は「人物名 時刻」の形式で区切られ、5人の視点から語られる。ある日の夕方から翌朝にかけて、その視点は小刻みに切り替わる。
真中美夜子(25)......居酒屋のバイトリーダー。彼氏と同棲中だが結婚を迷う。
鴻上優紀(37)......正義感溢れる機動捜査隊所属の女性警官。都内を警ら中にトラブルに巻き込まれる。
志田正好(34)......組に所属する売り出し中のやくざ。半グレ集団に拉致された若頭奪還を目論む。
畠山瑛隼(19)......小説家デビューした大学生。親友の恋人に横恋慕。
春日井充朗(24)......八方美人な会社員。人間関係に深く踏み込むことや争いごとが苦手。
藤石さんのツイッターには「静と動のスイッチ切り替えが激しい群像劇です。当初はもっと、theグランドホテル形式!な、狭い場所の話にする予定が、気づけばキャラクターたちが都内各所を走り回ってました」とあり、物語の躍動感が伝わってくる。
5人は別々の場所で、別々の物語をつむいでいる。しかし、5つの物語を読んでいたはずが、ある人物の物語に他の人物が登場し始め、予想もしなかったところでつながっていく。読了後、5人とその周辺人物の相関図を書き出してみると、縦横無尽に線がつながった。練りに練られた緻密な構成に驚くとともに、これが「卓抜した物語構成」かと納得した。
若者の同棲、恋愛、会社員生活を描くところは、興味を持ってグングン読めた。一方で、度々出てくるやくざの乱闘シーンはエグイ描写が多く、ページをめくる手が遅くなった。組のメンバーの名前が次々と出てきて混乱した。ただ、それほどのリアルな描写と、複数の人物を組み込む構成力の高さを示しているとも言える。
「時々気まぐれにスイッチを押すような神様。子どもがレゴのレールを敷くみたいに、だれかとだれかをすれ違わせたり、衝突させたりする。......巡りあわせに驚き、右往左往し、自分自身に向き合うことを余儀なくされる。わたしはおそらく今、スイッチを押されてしまっている」
神様は「偶然という名の奇跡のスイッチ」を押す。押された本人は、気づかぬうちに物語の主人公になっている――。「神様がスイッチを押して、わたしの運命を動かす」と感じられるほどにドラマチックな一夜を過ごしてみたいものだ。
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