火にかざすと数秒でパチッと殻が爆ぜた。黒い背中が裂けて中に見えるのは白い肉だ。それを取り出す。焼けたエビ類に似た匂いがした。鳥のささ身のような形。長さは1センチほど。舌に載せてかみ締めると、やはりエビのような、ちょっと甘い味がした。食べたのはアブラゼミ。これが評者の昆虫食体験だ。
本欄では最近、昆虫愛を語った『絶滅危惧の地味な虫たち――失われる自然を求めて』(ちくま新書)を紹介したばかりだ。人知れず絶滅していこうとしている虫たちがいる。一方で、役立たずな害虫として駆除され続ける虫もいる。本書『昆虫は美味い!』(新潮新書)はそれらの多くが、美味なのだと教える。そうした別角度からの視線を向けることも、昆虫への関心や愛を育てていくことかもしれない、と思った。
著者の内山昭一さんは、NPO法人食用昆虫科学研究会の理事で昆虫料理研究会の会長だ。約20年、昆虫料理の研究に携わっている。この世界を代表する1人だ。すでに6冊を著し、新聞やテレビなどにも多数登場しているので、内山さんの顔が浮かぶ人も多いだろう。
実のところ昆虫食はちょっとしたブームを起こしかかっている。ハチの子やイナゴの佃煮ばかりが昆虫食品ではない。2013年に国際連合食糧農業機関が「食品及び飼料における昆虫類の役割に注目する報告書」を発表して以来、さまざまな食べられる虫への関心が高まっているそうだ。関連書はずいぶんあるし、食材として昆虫を販売する専門店もある。試食会は探せば結構開かれている。
気になるのは、やはり味だろう。味を説明する場合、慣れ親しんできた別の食材を例に示す。さらに、たんぱく質の含有量や他の栄養素、香りの成分を紹介する。それらが20種以上並ぶ。
例えばカミキリムシ。見出しは「カミキリムシの幼虫は、マグロのトロの味」だ。「成分のおよそ半分を脂肪が占めている。悪玉コレステロールを減らすと言われるリノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸を多く含んでいる」と栄養素を解説。「この脂肪によるコクのある味が、脂ののったトロを思わせる」と導いている。ファーブルがその味を絶賛したことも紹介。「羊皮紙に包まれた上等の腸詰だ。中身はほっぺたが落ちそう」と記したそうだ。
コオロギの項目では、まず「くせが無くやわらかで食べやすい。現在、世界で一番メジャーな食用昆虫はコオロギだと言っても過言ではない......ヨーロッパやアメリカでは、コオロギ粉を混ぜたパスタやプロテインバーが販売されている」と海外事情を解説。ヨーロッパイエコオロギが一般的だが、亜熱帯産のフタホシコオロギの方が大きくて食べごたえがある、として推奨する。そして、生産性の高い養殖法の開発や食味の改善に取り組む徳島大の研究も紹介している。
このほか本書は、食味だけではなく、昆虫食の世界情勢や歴史、将来展望などを紹介。アジア7か国、オセアニア、中近東、アフリカ8か国、欧米6か国の実情や宇宙食として米宇宙航空局が注目していることに触れるなどしている。
ただ読んでいて、答えが見つからなかった疑問もある。紹介されている昆虫の食味は、どの部位を指して言っているのか、だ。評者の昆虫食体験では、アブラゼミのついでに捕獲したバッタも実は食べている。家族が何かの本で仕入れた「食べられる」という情報から、バッタは佃煮にしたのだが、腸にとどまっていた排せつ物の生臭いにおいには閉口した。捨てる部位、食べられる部位、おいしい部位を明確にしてほしかった。
そうした事柄は、これまでの著作などで説明済みなのかもしれない。『食べられる虫ハンドブック』以外を列記しておく。『楽しい昆虫料理』(ビジネス社)、『昆虫食入門』〈平凡社新書〉、『人生が変わる!特選昆虫料理50』(共著 山と渓谷社)、『虫食い散歩2033~未来の街角から 昆虫食写真集』(昆虫料理研究会 編)、『昆虫を食べてわかったこと』(サイゾー)。
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