読むべき本、見逃していない?

朝日記者の NHKウォッチ30年 あの会長、この会長はこれでクビになった!

変容するNHK

 『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)が、7万部を超えるベストセラーになっている。この手の本にしては異例の売れ行きだ。NHK大阪放送局で森友事件を取材し、特ダネを連発していた相澤冬樹記者に圧力がかかり、相澤さんは閑職に異動を命じられ、退職する。政治部出身のNHK中枢幹部から大阪放送局へ指示があったと見られている。「忖度」は霞が関の官僚にとどまらず、公共放送を掲げるNHKにも及んでいたことを内部告発した書だ。

 政権からのプレッシャーにNHKが弱いのは、今に始まったことではない。本書『変容するNHK――「忖度」とモラル崩壊の現場』(花伝社発行、共栄書房発売)は、30年近くNHKを取材してきた朝日新聞社会部の川本裕司記者が、NHKの問題点をえぐり出した渾身のリポートだ。

「いくらもうかるか」と聞いた三井物産OB会長

 1989年に島桂次氏が会長になる以前から川本さんはNHKをフォローしてきた。元三井物産会長の池田芳蔵氏がNHK会長となったが、海上自衛隊潜水艦「なだしお」と釣り船「第一富士丸」が衝突した映像をNHKがスクープすると「これでいくらもうかるのですか」と質問したり、国会では得意の英語で長々とあいさつしたり、失言が多く局内外でひんしゅくを買っていた。そうした池田会長の不用意な言動は自民党にも受けが悪く、受信料の値上げは吹っ飛んだ。会長人事に深く関与するNHK経営委員長は磯田一郎・住友銀行会長が務めていた。川本さんは池田会長、磯田経営委員長のダブル辞任をスクープした。

 その後の会長となった島氏は、衛星放送の有料化や経営改革に辣腕をふるったが、国会での虚偽答弁が引き金となり辞任に追い込まれた。川本さんは「NHK内部と政治家の一部が呼応したかのような動きを見せ、島会長の追い落としの意図が明確だった」と書いている。ちなみに島批判の急先鋒は自民党竹下派の野中広務・衆院逓信委員会委員長だったという。

 戦後、電波行政にもっとも影響力をもったのは田中角栄氏である。所管する郵政省(当時)を通じて、新局の開局で競い合う民放キー局とNHKにも隠然たる勢力を及ぼしていた。川本さんは、野中委員長の背景に、竹下派前身の田中派を長く担当した海老沢勝二氏の影を見る。海老沢氏はNHKエンタープライズ社長から本体に復帰、専務理事、副会長を経て、97年に会長になる。政治部で5年先輩だった島氏とは、自民党の派閥抗争さながらの足の引っ張り合いがあったようだ。

 海老沢会長時代に起きたのが、慰安婦問題を扱った「ETV2001」の問題だ。放送内容をめぐり取材に協力した市民団体がNHKなどを相手取って損害賠償を求める民事訴訟を起こした。背景には当時の安倍晋三官房副長官からNHK幹部に「公正中立の立場で報道すべきではないか」という発言があり、その意図を忖度して当たり障りのない番組にすべく、改変が行われた、と書いている。

不祥事相次ぎ辞めた海老沢会長

 ちょうどこの時期、衛星放送の有料化と受信料の値上げで経営が潤沢になったせいか、職員の不祥事が相次いだ。カラ出張など金銭スキャンダルに加えて、受信料支払い拒否は空前の規模となった。2005年には不払い率30%の大台に乗った。「NHKがつぶれるのでは、と本気で思った」という理事のことばを紹介している。視聴者の怒りが海老沢会長の辞任につながったという。

 その後、生え抜きの橋本元一会長、アサヒビール相談役から起用された福地茂雄会長、JR東海副会長だった松本正之会長と続き、13年に会長となったのがさまざまな言動で波紋を呼んだ籾井勝人氏である。三井物産OBという点では池田芳蔵氏と同様だ。ジャーナリズム、報道にかんする見識が欠け、経営委員会の支持も得られず、1期の任期満了で退任した。16年12月、後任には元三菱商事副社長で常勤のNHK経営委員だった上田良一氏が就任した。

 籾井会長時代の異常さは陰を潜めたが、川本さんは報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを23年間務めた国谷裕子さんの降板には、官邸の顔色をうかがったNHK上層部の判断があった、として実名で幹部の発言を書いている。

 長く続く安倍政権で安倍首相に食い込む岩田明子記者についても多くのページを割いている。本人に野心や私心はないが、NHK人事に影響力をもつようになっている、という内部の声を紹介している。また「安倍首相の内心を代弁するかのような語り口」の解説に戸惑うこともある、と書いている。

 会長人事をめぐる政治との距離についてピックアップして本書を紹介したが、NHKの番組のすばらしさ、優秀な人材についてもふれている。その上でNHK内部の「乖離」と「分断」があり、やりがいを見いだせない一部の職員による不祥事の連鎖が断ちきれないのでは、と見ている。新聞は気に入らなければ購読を止めればいい。しかし、NHKの受信料の支払いは法律で定められている。だからこそ、NHKは公共放送として、しっかりとその役割を果たしてほしいと思う。

 川本さんは、朝日新聞で学芸部、社会部、企画報道部、総合研究本部、編集委員など、さまざまな職場を移りながらも、NHKなどメディアを対象に取材してきた。そのねちっこい息の長い仕事ぶりは業界では有名だ。NHKのネット同時配信も視野に入る中、今後もNHKウォッチを続けてほしい。

 評論家の田原総一朗さんが「NHKの問題点をこれほど詳しくそして鮮明に描き出した作品は他に無い。非常に読みごたえがある」と推薦のことばを寄せている。  

  • 書名 変容するNHK
  • サブタイトル「忖度」とモラル崩壊の現場
  • 監修・編集・著者名川本裕司 著
  • 出版社名花伝社発行、共栄書房発売
  • 出版年月日2019年2月 5日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・241ページ
  • ISBN9784763408778

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