那須正幹さんは、大ベストセラー「ズッコケ3人組」シリーズで知られる児童書の大家だ。その那須さんの新作『ばけばけ』(ポプラ社)を見て、驚いた。独居3老人が主人公の「R70文学」だというのだ。
「ズッコケ3人組」シリーズは、1990年代に大ヒット。その後「ズッコケ中年3人組」シリーズに書き継がれた。本書は3人の老人が登場するが、「ズッコケ」との関連は特にない。
舞台は「ズッコケ」でもモデルとなった広島市を彷彿とさせる瀬戸内海沿いの100万都市。5年前に妻に先立たれた氷室大造(75)、近所に住む豊中良治(75)、元大学教授の遠山薫(70)は、一人暮らし同士で公園に集まり雑談する仲間だ。3人で公園に現れるタヌキにえさをやり、可愛がっていた。
ある日、大造はオレオレ詐欺にひっかかり100万円を騙し取られた。公園に集まると、良治がタヌキにヌードグラビアを見せる。するとタヌキは全裸の女性に変身した。その後、大造の家で飼うことになったタヌキは亡くなった妻の安子となり、一緒に暮らし始める。タヌキだとわかっていても情がわいてきた大造。研究材料にしようとたくらむ遠山に対して、タヌキは一計を案じる。
言ってみりゃ、これは老人のメルヘンだ。タヌキがばけて亡き妻に変身、身の回りの世話をかいがいしくしてくれたら、どんなにいいだろう。そんなかなわぬ夢をかなえてくれるのだ。
ばかばかしいと思いながらも、老人たちの周辺で起こるさまざまな事件や出来事を見事にタヌキが解決してくれるさまに喝采を送ってしまう。こんなうまい話があるはずがない、どんな結末が待っているかと、最後ははらはらしながら読んでいた。
読者の年齢によって、本書の感想はさまざまだろう。若い人は荒唐無稽なホラ話と笑うかもしれない。60代は配偶者が健在なことに安心しながらも、やがて迎える後期高齢者となった我が身を想像して読む可能性がある。そして70代で独り身の人は我が事のようにせつなく感じると思う。
少し大きな活字で行間もゆったりしているので、字面は児童書のような印象を受けるが、後期高齢者にはこれくらいがちょうど読みやすいかもしれない。しかも、内容は夢のようなお話。「R70文学」というキャッチフレーズは誇大広告ではない。
那須さん76歳。児童書を書き続け、ついには「老人文学」の書き手となった。その幅の広さに感心するしかない。
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