直木賞作家の重松清さんがこれまでの作風をがらりと変えた小説を出した。本書『木曜日の子ども』(株式会社KADOKAWA)は、中学生による凶悪事件に端を発するミステリアスな作品。人間の根源に迫る衝撃作だ。
7年前に中学校のあるクラスで給食の野菜スープに毒物が混入されて9人が死亡するという凶悪事件が起きた旭ヶ丘ニュータウン。再婚相手とその連れ子の晴彦とともに引っ越してきた「私」は、出足から暗い影に覆われる。
前の学校でひどいいじめにあっていた晴彦が、7年前の事件の犯人、上田祐太郎少年と瓜二つだというのだ。上田を知る教師が逆光越しに見た晴彦に驚き、卒倒してしまったという。その教師宛に「木曜日の子どもは元気ですか」という不審な手紙が届く。
折しも少年院を出た上田がニュータウンに戻り、「ウエダサマ」としてカリスマになっているという噂がひろがる。当時の事件を取材した沢井というルポライターが現れ、一緒に真相を突き止めようとするが、すぐに思いがけない事件が起きる。
ミステリアスだが、謎解きというより人間そのものの謎に正面から向き合う作品だ。過去に事件を犯した上田少年は、果たしてニュータウンに戻ってきたのか。1997年に発生した「神戸連続少年殺傷事件」の犯人少年Aのことを連想した。彼はその後成人になってから事件について本を出版した。その自己顕示欲の強さに再び批判が集まった。
評者は過去に、神戸の事件があったニュータウンの現場近くに偶然住んでいたことがあり、子どもが少年Aと同世代だったため、事件に大きな衝撃を受けた。一方であのニュータウンだから、事件が起きたというような一部の評論家や識者のコメントにも反発を感じた。
本書でもルポライターの沢井が大きな役割を果たす。事件取材、とりわけ少年事件の取材には困難が伴う。重松さんは作家デビューする前、別名のルポライター名義で活躍、多くのメディアに発表の場を持っていた。またたくさんの本のゴーストライターだったことも明かしている。本書には、そうした重松さんの過去の仕事の蓄積が生かされているように思った。
重松さんの小説には同じようにニュータウンを扱った作品に『定年ゴジラ』がある。哀感がありながら、ほろっとさせる内容だった。この「ほろっと」させるのが、重松さんの小説の特徴なのだが、本書では別人になったような書きぶりに驚かされた。人間の影の部分を徹底的に掘り下げようとする「ダークな」世界に切り込む作家へのイメージチェンジを喜びたい。
本書について、ある書店員が「この本は世に出ていいのか」と感想を述べたくらい、ストーリーは驚くような展開を見せる。「少年法」がどうのこうのという議論も無力感を覚えるほどの「悪」の前に、人間はどう立ち向かったらいいのか。本書に作家生命をかけたかもしれない著者の意気込みを感じた。タイトルを意識したのか木曜日の本日(2019年1月31日)発売だ。
少年事件を扱った小説として本欄では『友罪』(薬丸岳、集英社文庫)を紹介済みだ。こちらはずばり少年Aの事件を連想させる作品で、昨年(2018年)映画化もされた。
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