子どもが犠牲になる交通事故のニュースを目にするたび、もし我が子が被害者だったら、もし自分が加害者だったら、果たして立ち直ることができるのか...と考える。
本書『一瞬の雲の切れ間に』は、八歳の男の子が亡くなった交通事故をめぐり、「加害者の夫の不倫相手」「被害者の母」「加害者の夫」「加害者」ともう一人の5人が順に語る連作短編集。2016年にポプラ社より単行本として刊行され、18年に文庫化された。
著者の砂田麻美さんは映画監督。1978年東京生まれ。大学在学中よりドキュメンタリーを学び、卒業後はフリーの監督助手として是枝裕和監督らの映画製作に従事したという。砂田さんの初監督作品である2011年公開のドキュメンタリー映画『エンディングノート』は、09年にガンを宣告された砂田さんの父が、人生を総括し、家族にあてたエンディングノートを残すまでの姿を記録したもの。砂田さんは本作で、日本映画監督協会新人賞などを受賞した。また、スタジオジブリを題材にした、13年公開のドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』では脚本・監督を務めた。小説の執筆作品には『音のない花火』(ポプラ社)がある。
事故があった当日、健二は昼からビールを飲みたいと言い、美里は一瞬運転するのをためらった。しかし、健二が子どものように頼み込んだため、美里はしぶしぶ運転することにした――。サッカーの練習からの帰り道、家までわずか五分ほどの場所で、自転車に乗っていた俊は車に撥ねられた。救急車を待つ間しばらく、俊は息をしていた――。
「もう二度と俊と話ができないのだと理解して、私はおかしな角度で廊下にへたり込んだ。あの頃の記憶は断片的で、ぼんやりと靄がかかり、今でもうまく繋がらない」
「二人(加害者とその夫)に五歳の息子がいるという事実を聞いた時、身体から臓器を素手でむしり取られるような痛みを感じて、途端にまだ見ぬ彼等の印象はゆらゆらと大きく歪んだ」
俊を失った吉乃のあまりにも悲痛な心境がリアルに描写されていて、感情移入した。一瞬にして被害者の命を奪い、遺族と加害者の人生を狂わせる事故というものは、ささいな出来事が折り重なって引き起こされるのだろう。被害者・加害者双方が、自らの身に起きた悲劇に翻弄されながらも、そこから生まれてくる感情をどう整理して、生きていくのか。5つの視点から語られる本書は、紙を読む感覚より映像を見る感覚に近いと思った。
あえて1つ気になったことを挙げると、帯にある「最終章で叫びたくなる! すごい文庫!!」の謳い文句は、物語の最後に大どんでん返しが待っているかのような印象を与えるため、違和感が残った。最後にあるのは驚きの展開ではなく、それまで出てこなかった人物が語る新たな事実と言える。
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