「ダムマニア」という人たちが存在することは知っていた。水の放流があると聞けば、山奥のダムに駆けつけ、その様子を撮影したり、ダムカレーなる名物料理を食べたりと、ダムを愛する人々だ。
本欄でも『日本のダム美』を先月(2018年12月)末に紹介したばかり。「ダム」がブームになりつつあるのか、と思っていたら、本書『地球の歩き方JAPAN ダムの歩き方全国版』(ダイヤモンド社)が発行されていることを知った。全国を対象にしたダムのガイドブックまで出ているのだから、これはもうブーム到来と言っていいだろう。
本の内容にふれる前に、執筆者のプロフィールを何人か見てみると......。神奈川県在住の「炭素」さんは、福島県の奥只見ダムを見てダムの魅力にはまり、9年間で約700基のダムを巡り、日本ダム協会のダムマイスターとして活動している。「夜雀」さんもダムマイスター。土木愛好家でもあり「ダムの歴史、構造、計画・設計、管理と操作を勉強中」だそうだ。監修もしている萩原雅紀さんは、偶然たどり着いた神奈川県の宮ケ瀬ダムを真下から見上げ、ダムに目覚めたという。国内外500のダムを訪れ、『ダムかるた』などダム関連の著書も多い。特に共通点はないが、ある日突然、ダムにはまったという人が多いようだ。
第1章は「ダムを巡る旅」。「奥会津の景勝地に連なる電力ダムを訪れる」など18のコースを紹介。車で回るモデルプラン、ダムの写真と解説、地図で構成している。
第2章は「ダムマニアがテーマ別に厳選したダム・データファイル100」。「圧倒的な存在感のダム」「秘境のダム」「周辺施設が充実するダム」「秀麗なるダム」「歴史のあるダム」の5つのテーマで紹介している。
富山県にある有名な黒部ダムは「圧倒的な存在感のダム」の筆頭で、186メートルの堤高は日本一。世界のアーチダム技術の結晶と讃えられている。しかも秘境にあり、見学施設も充実、秀麗さでも文句なく、誕生までの苦難の歴史があり、とすべてのカテゴリーを完璧に備えた別格の存在だという。関西電力が社運をかけて建設したことは、本欄でも初代社長・太田垣士郎の評伝『胆斗の人』で紹介済みだ。
箸休めのコラムも面白い。ダムカレーについて、「ダム型のカレー」ではなく、「カレー型のダム」だと定義している。2つのルーツがあり、黒部ダムをモチーフにした「黒部ダムカレー」ともうひとつはダムの形式を忠実に再現した東京のレストラン三州家の「アーチ式ダムカレー」が起源といわれているそうだ。2017年には全国で約135種類あるというからすごい。
国土交通省の「ダムインフラツーリズム」の後押しもあり、急激にダムカレーは増加したという。国交省はもうひとつ、「ダムカード」の普及にもかかわっている。「ダムカード」とは一般的なトレーディングカードと同じサイズで、表面にはダムの写真、裏面にはダムのスペックなどが掲載されているダムの簡易パンフレットのこと。ダムを訪れると、管理所で一人1枚もらえる。2007年に誕生し、国交省、水資源機構などが管理するダムで配布されている(電力会社系のダムでは発行していない)。
日本にあるダムの数は約2700。そのうち半分で「ダムカード」を配布する可能性があるが、現在あるのは680種類。ダムマニア以外のカードコレクターも集め始めているが、実際に現地に行かないと入手できないため、収集のハードルは高い。
評者の父は生前、砂防ダムの設計の仕事をしていた。派手な電力ダムと違い、地味であまり知られない存在のダムだ。長じて偶然、奥羽の山中でその一つを見る機会があった。本書にはもちろん取り上げられていないが、雪解けの時期にもう一度見に行こうと思った。ダムマニアに仲間入りするかもしれない
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