秋田のナマハゲなど日本各地の「来訪神」がユネスコの無形文化遺産に登録された。そのニュースを聞いて、イタコのことを思い出した。地域の土俗的信仰という点では類似点がある。
本書『イタコとオシラサマ―東北異界巡礼』(学習研究社)は、なかなかの労作だ。著者の写真家、加藤敬さんが長期にわたって現地取材を続け、イタコの女性とも次第に昵懇になって写真を撮影、彼女たちの人生や来歴などを綴っている。10数年前の本だが、いま読んでもまったく色あせず、リアリティがある。
加藤さんは1936年生まれ。もともとは毎日新聞のカメラマン。78年に退社後、フリーに。初めて恐山の秋詣祭でイタコを見たのは85年のことだったという。加藤さんは当時、すでにヒマラヤに近いラダックで「ラバ」という女性シャーマンと出会い、現世と霊界を行きかうシャーマンの取材に関心を持っていた。
その後も韓国などアジア各地のシャーマンを取材し、『万神―韓国のシャーマニズム』『聖なる響―西チベット少数民族の祈り』など著作も多い。カメラマンとしては相当数奇な取材を続けた一人で、写真展もしばしば開催している。
イタコは死者の言葉を依頼者に伝える「口寄せ」を生業とする。大半は盲目の女性だ。加藤さんによると、80年にはイタコ名簿に33人が登録されていたが、85年に実際に祭に参加していたのは23人だった。90年の秋の大祭では18人に減り、2001年の夏の大祭の参加者は15人にとどまった。修行の大変さや高齢化で減り続けている。イタコの実像を記録できるのは今しかない、ということで足しげく通った。
イタコの世界というのは、独特のしきたりや人間関係があって取材などでも入り込みにくいのではないかと思う。加藤さん自身も「部外者に対するガードが非常に固く」、苦労したと振り返っている。しかし、通ううちに宿舎への出入りも許されるようになり、いつのまにか「中の人」のような感じになった。
本書には多数の貴重な写真も収められているが、とくに興味深いのは、個々のイタコの人物紹介だ。「三歳の時に麻疹にかかって全盲になり、13歳でイタコに弟子入り、15歳でイタコになる。守り本尊は観音様」など、1人ひとりの名前と来歴が細かく記されている。なるほど、イタコというのはこういう人たちなのかということが部外者にも理解できる。
本書で貴重な若手として紹介されている1972年生まれの女性は、2013年に『最後のイタコ』という本を出している。いちだんとイタコの減少に拍車がかかっているのだろう。ナマハゲなどとは違って、こちららは将来、消えてしまう文化遺産かもしれない。
本欄では関連書として、地域の土俗的な信仰を扱った『ニッポン 離島の祭り』も紹介している。
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