日本のあちこちに風変りな祭りや伝統行事がある。すぐに思い浮かぶのは、秋田の「ナマハゲ」だろうか。変な扮装の「来訪神」が子どもたちを驚かす。
本書『ニッポン 離島の祭り』(グラフィック社)は各地の祭りの中から「離島」に関係するものを選びだし、写真と短い解説で紹介したものだ。ぱらぱらめくるだけで、「ナマハゲ」のような奇神が、実は全国あちこちの島で存続していることがわかる。
著者の箭内(やない)博行さんは1973年生まれ。「島」「祭り」「日本再発見」をテーマとする写真家だ。なかでも「島」にはこだわっている。日本に有人島が400余りあるそうだが、その中の340ぐらいを訪れているという。
現地に行くだけなら、多少の交通の不便さえ覚悟すれば、何とかなりそうだ。箭内さんは「祭り」を撮るわけだから、ちょっとたいへんだったのではないか。撮影の時期は見物客や帰省者で混雑して宿泊もままならないはず。あるいは宿そのものがない島もあるだろう。加えて祭りには「秘事」が付き物。部外者シャットアウトというケースも想定される。事前に主催者の了解も取り付けねばならない。本書には34の祭りが収録されている。
有名なところでは、福岡・沖ノ島の祭りがある。海上渡御神事「みあれ祭」が紹介されている。多数の漁船が玄界灘の海路を清める。島内の写真も掲載されている。
沖縄の久高島の「八月マッティ」も珍しい。島には多数の神事があるが、ほとんどが非公開。これは数少ない見学可能な祭りだそうだ。島の穢れを祓い、島民の健康を祈願する夏の大祭だ。久高島といえば、「イザイホー」で有名だが、残念ながら1978年を最後に行われていない。
本書で目につくのは、奇怪な被り物などで鬼面人を驚かす神々だ。いわば「ナマハゲ」の親戚のような祭りの主役たち。なかでも隠岐の島の「蓮華会舞」が面白い。日本最古の「伎楽」やベトナムにルーツを持つ「林邑楽」の名残をとどめる演目が奉納される。主役たちは不思議な仮面を付けている。トカラ列島の「ボゼ」、宮古島の「パーントゥ」、鹿児島・甑島の「トシドン」、与論島の「十五夜踊」など、なんじゃこれはとビックリするようなものも少なくない。
著者はなぜ島を巡るのか。
「離島は日本の縮図である。島を知ることは、島国日本を知るということ。この国に本来あった原形を知るということ」だと記す。そして「離島ゆえに残され、継承されてきた祭りや習いの数々は、どこか懐かしいような、日本らしい普遍的な価値観を思い出させてくれるように感じる」。
だが、そうした伝統が真っ先に消えかねないのが離島の宿命だ。きちんと記録に残すことをライフワークに、箭内さんは今日もまた全国の島を巡っているに違いない。著者の熱い思いと、日本列島のふところの深さ、多彩さを改めて知ることができる一冊だ。
「来訪神 仮面・仮装の神々」は2018年11月末にはユネスコの無形文化遺産に登録される見通しだという。著者や出版社にとっては朗報だ。
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