映画「あいあい傘」(出演 倉科カナ、市原隼人)が、今年(2018年)10月26日に公開された。監督・脚本の宅間孝行さんが07年、当時主催していた劇団「東京セレソンデラックス」で上演し、生き別れた娘と父の再会を描いた同名舞台劇を映画化したもの。映画の小説版となる本書『あいあい傘』は、著者・石川拓治さん、原案・宅間孝行さんで、今年3月にSDPより単行本として刊行され、10月に文庫化された。
結婚してよ、夫婦で歩いていくのはよ、つまりはあいあい傘で雨の中歩くことなんだって......。(中略)恋人同士で別々の傘で歩いてりゃすぐにお互い別の道を選択できるけど、あいあい傘はそうはいかねえって。決して楽しいだけじゃねえってよ......。
(宅間孝行 作 東京セレソンデラックス公演『あいあい傘』より)
本書の最初に、夫婦の関係をあいあい傘にたとえる一節がある。あいあい傘をする時、相手の歩幅に合わせて歩いたり、相手が雨に濡れないように傘の位置を調整したり、一人で一本の傘をさして歩く時より色々と考える。夫婦関係も同じく、無意識のうちに互いに心配りをする間柄というのは、そのとおりだと思った。
「第一幕 一九八〇年代初頭のある年、残暑の続く九月。子連れのテキ屋はなぜ、泥棒を放免したのか。」「幕間 父親に捨てられた少女と母親と、不審な男。」「第二幕 西暦二〇〇〇年を数年過ぎたある春の終わり。父親に捨てられた娘が、正体を明かすことなく、実家へと帰った理由。」と、本書は舞台風に構成されている。
虎蔵は32歳、職業はテキ屋。テキ屋とは、全国津々浦々の縁日を回る露天商のこと。一年の大半を旅先で過ごし、北関東のこの町には毎年やって来ていた。テキ屋の元親分の娘・玉枝とは、虎蔵が18歳、玉枝が小学生の頃から知る間柄だ。数年後、美しく成長した玉枝は身籠っていたが、父親が誰かを決して明かさなかった。ある時、玉枝が営む茶屋に、車海老という男が泥棒に入った。車海老は6年前に料理屋をクビになって以来、放浪生活を送っていた。同じ頃、玉枝の茶屋の近くで首をくくる枝振りのいい木を探す男がいた。(第一幕)
この男・六郎は教師をしていたが、教え子を追い詰めてしまったことに責任を感じ、妻と娘・さつきを捨てて蒸発していた。(幕間)
それから20年後、浮浪者の車海老は会社代表になっていた。虎蔵は3年前に病死し、息子・清太郎がテキ屋を継いでいた。玉枝の娘・麻衣子は19歳になった。自殺をしようとして茶屋にたどり着いた男・六郎は、玉枝と麻衣子と新たな家庭を築いていた。そこへ、六郎と生き別れた娘・さつきが現れる。さつきは、六郎が遠い町で幸せに暮らしていたことを知り、ショックを受け、六郎を自分たちのもとへ連れて帰ろうとするが......。
登場人物同士が複雑に絡み合い、ある時は助け、助けられ、また誰かの力になる。長い年月の間に循環する、人の思いやり、人のつながりが描かれていて、作品全体に温かみを感じた。
著者の石川拓治さんは、1961年茨城県生まれ。リンゴの無農薬栽培に成功した木村秋則さんを描いたノンフィクション『奇跡のリンゴ』(幻冬舎文庫)は45万部のベストセラーとなり、2013年に映画化された。
原案の宅間孝行さんは、1970年生まれ、東京都出身。俳優、脚本家、演出家。97年に劇団「東京セレソン」を旗揚げ(後に「東京セレソンデラックス」と改名)、12年に劇団を解散し、13年に「タクフェス」を立ち上げる。主な脚本作品に「花より男子」シリーズがある。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?