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「ミルフィーユ」銀行、ネットで検索してみよう

「かわいい」と建築

 「かわいい」と「建築」――取り合わせが何ともそぐわない。「かわいい」は、移ろいやすくて頼りない。幼稚で半端な印象だ。「建築」には、どっしりとしていて堅ろうで威厳のあるものを求める。特に公共建築には、それが言えるだろう。ところが、現代の公共建築には、「かわいい」が求められているという。建築に今、何が起きているのだろうか。

豆腐を半分に切ったような直方体

 建築を扱う本だから、写真がふんだんに使われているだろうと思って本書『「かわいい」と建築』(海文堂出版)を手にした。幼稚園や児童向け施設の建物が議論の中心になるのならばツマラナイな、という危惧もあった。しかし、それは裏切られた。

 目を引いたのは、巣鴨信用金庫志村支店(東京都板橋区小豆沢1)など5支店だ。フランス人建築家エマニュエル・ムホーさん(東京在住)がデザインした。

 志村支店は付近の青梅街道を通る人は見覚えがあるかもしれない。豆腐を半分に切ったような直方体に、厚みのある板12枚を正面右から水平に差し込んだ外観がよく目立つ。どの板も正面と右側の2方に、かなり張り出して庇になっている。

 この庇の大きさはまちまちだが、下の面が彩色されている。その色が、パステルカラー(濁色)なのが金融機関では珍しい。上層の寒色系から下層の暖色系へと変化、遠目には寒色系に、近づくにしたがって暖色系が目立つ。ポーチに立って見上げると、12枚の色とりどりの庇全てが不規則に重なって見えるようになっている。

 植栽したエントランス周辺には数基のベンチを設置。タンポポの綿毛を図案化した模様をあしらった吹き抜けと壁のある店内は、パステル調のカラフルな椅子が並ぶ。子供用のスペースもある。外観よりもさらに「かわいい」寄りだ。

 テーマは「虹のミルフィーユ」。当初、デザインでは「かわいい」は狙わなかったが、「かわいい感性デザイン賞」最優秀賞(日本感性工学会主催、2014年)に選出されてしまった。

受け手側に重点を置いた感覚

 どこが、かわいいのか。本書は、実験などを通して「かわいい」を分析。それによると、「かわいい」という感情は、「幸福感」「好感」「養護感」の3つに分類される。「幸福感」は「和む、癒やされる、微笑ましい」の意味で、生命存続リスクがないという判断に基づく。「好感」は「見ていたい、触りたい」で、そうしたリスクがないことのシグナルをとらえた際の感情。「養護感」は「世話したい、守ってあげたい」で、他者との結びつきを促す感情ミラーニューロンの発動となる。いずれも、スキンシップにつながり「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンと呼ばれるホルモンの分泌を促す作用がある。

 まとめて言えば、「かわいい」は情報の発信者よりも、受け手側に重点を置いた感覚表現だと言えるかもしれない。

 志村支店に話を戻そう。外観や内装は、金融機関という堅いイメージを極力排除していた(看板さえない)。エントランスのベンチや、内部には子供用スペース、カラフルな椅子があって、スキンシップを促す仕組みが出来上がっていた。これが、かわいい感性デザインになっていた訳だ。

 では、なぜ現代に「かわいい」が求められているのだろうか。00年代後半から、「かわいい」がマスコミなどに登場するようになったこと以外に、本書はそれには直接答えていない。

 ただ、経済産業省が2007年に打ち出した「感性価値創造イニシアティブ政策」に触れる。商品開発の指針を、従来の性能や特性の向上から、「商品が及ぼす(消費者の)心理面を、開発の原点にすべきだ」と提案して、大きく舵を切った。遊び心、美意識、わくわく感、安らかさ、共感などを強調した政策だった。少子高齢化に伴う人口減という新たな時代への対応指針だ。

 これがきっかけになったかどうかは、分からないが、そのころから「かわいい」がポピュラーになったような印象は、評者にもある。

 志村支店以外に紹介されている施設には、以下の建物などが並んでいる。

・山形BPOガーデン
・中野こども病院
・和歌山電鉄貴志駅
・東進衛星予備校神戸岡本校
・九大病院小児医療センター

BOOKウォッチ編集部 森永流)
  • 書名 「かわいい」と建築
  • 監修・編集・著者名日本建築学会 編
  • 出版社名海文堂出版
  • 定価本体2700円+税
  • 判型・ページ数新書・272ページ
  • ISBN9784303712129

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