読むべき本、見逃していない?

鉄道ファンの新ジャンル「文字鉄」知ってる?

駅の文字、電車の文字

 鉄道趣味にはさまざまあって、興味の対象により「乗り鉄」や「撮り鉄」とか呼ばれている。本書『駅の文字、電車の文字』(鉄道ジャーナル社)の著者は、いわば「文字鉄」。各地に残る古い「駅名標」などを訪ね、新橋―横浜間に最初の鉄道が開業して以来の「鉄道文字」の歴史を探る。意外と奥が深いのだ。

「タモリ電車クラブ」で紹介

 3年前の8月、大阪環状線の寺田町駅(大阪市天王寺区)で改良工事中に、古い駅名標が見つかった。駅名標は、別名「駅名板」。駅の名前を表示した看板で、駅舎の入口に掲げるものや、ホームに設置する「つり下用」や「建植用」など4種類がある。同駅で見つかったのは、ホーム上屋の鉄柱に渡した羽目板に書かれた珍しいもので、長い間掲示板の背後に隠れていて、その存在が忘れられていたという。

 羽目板に書かれたことから交換などがなかったこと、塗り替えの際になぜか保護されたこと、戦中の空襲による戦禍を免れたことなどが重なって存在を続けたもので保存が検討され、修復作業が施されて2016年5月に、新たな駅名標としてお披露目された。翌月に、テレビ番組「タモリ倶楽部」の名物企画「タモリ電車クラブ」で、この駅名標が紹介され、それをきっかけにSNSでも広まっていった。

 鉄道ファンの間でも、鉄道文字や駅名標への注目は高いとはいえなかったが、寺田町駅での発掘から保存に関することが同番組で伝えられると、大いに関心が高まったらしい。

駅名標、戦前は群青地に白文字

 駅名標などの案内表示は、新橋―横浜間で最初の鉄道が走り始めてから26年後の明治31年(1898年)に「各驛々名札記載例竝形状寸法ノ件」の通達が出され、以来、国鉄ではJR各社となる分割民営化されるまで、さまざまに統一への規格化が図られてきた。

 明治39年(1906年)には「驛名標之圖」で、文字の形状や寸法の例を示し、これは、同年に、鉄道国有法が公布されるなど、私設鉄道の買収後の鉄道網の統一に向けた動きに呼応したものという。

 駅名標などは戦後、昭和21年(1946年)から順次改定された鉄道掲示規定に応じて改良が進む。同年には、書字方向が、左から右への横書きに。そして、同29年(1954年)の鉄道掲示規定で、それまでの群青地に白文字から反転、白地に黒文字の看板になったほか、文字は同年、それまでの筆文字から丸ゴシック体が採用された。

すみ丸ゴシック

 大阪環状線の寺田町駅で発掘された駅名標は、戦前に設置されたものだが、修復作業の過程で少なくとも4回書き換えられていることが分かった。下層に筆文字で「てらだちゃう」と、古い拗音表記をまじえ右から左へ横書きした跡などが確認できるという。保存された駅名標は、昭和21年以降の鉄道掲示規定に拠ったものであることが分かるという。書字方向は左から右であり、ローマ字が改修ヘボン式の「CHO」になっていること、拗音の表記が「や」「よ」に替わり、新字体の「区」が使われていた。

 昭和35年(1960年)以降、文字書体は、それまでの丸ゴシック体から「すみ丸角ゴシック体」が国鉄の制定書体となる。駅名標は各地の職人の手書きだったので、場所により文字の感じがバラバラになりがち。この「すみ丸」は誰でも同じように書けるということから導入された。具体的な書き方の解説書も配られたそうだ。

分割後、JR東はモリサワ「新ゴ」

 その後、国鉄時代の末期には写真植字用に設計された「JNR-L」という書体が、昭和57年(1982年)6月に大宮―盛岡間で暫定開業した東北新幹線の施設で使用されやがて一部在来線にも普及したという。

 分割民営化後は、JR東海が「すみ丸」を引き継ぎ、東日本や九州は、フォントメーカー大手のモリサワが開発した「新ゴ」を使うなど、それぞれ独自路線を歩む。各地には、大阪の寺田町駅の駅名標ほどではなくても、見慣れぬ書体の駅名板があり、鉄道の旅で、目的地の駅に降りたときに感じる旅情や郷愁は、その表示が醸し出す雰囲気があるのかもしれない。

 かつてはどの駅にもあったホーロー製の柱用駅名標が姿を消しているが、北海道では、広告メディアとして素材を変えるなどして、北海道新幹線の駅などにも使っているという。JR北海道は、いち早く「文字鉄」をターゲットにしている?

 著者の中西あきこさんは1975年生まれ。大学時代から書道を学んでおり、東京都内の地下鉄に残る旧い文字に興味を持つようになり、手書きの駅名標文字について調べを始めたという。2年前には『されど鉄道文字』を上梓している。

  • 書名 駅の文字、電車の文字
  • サブタイトル鉄道文字の源流をたずねる
  • 監修・編集・著者名中西 あきこ 著
  • 出版社名鉄道ジャーナル社発行、成美堂出版発売
  • 出版年月日2018年10月 1日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書・240ページ
  • ISBN9784415324227

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