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「強欲の果ての地平へたどり着いてみたい」・・・村山由佳、衝撃作の続編

ミルク・アンド・ハニー

 今年(2018年)5月に刊行された村山由佳の『ミルク・アンド・ハニー』(文藝春秋)は、09年に柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞をトリプル受賞した『ダブル・ファンダジー』の続編だ。本書の主人公は、表向きは著名な脚本家、裏では性に奔放な女性。華麗な男性遍歴を持つが、著者の実体験がベースになっているという。

 『ダブル・ファンダジー 上・下』は、35歳の脚本家・高遠奈津が、田舎で同居する夫の抑圧に苦しむ。創作に対する夫の関与に耐えきれず、恩師である演出家・志澤の意見に従い、奈津は家を出る。志澤とのかつてないセックスを経験した奈津は、大学時代の先輩・岩井と再会する。妻子ある岩井との友情にも似た性的関係は、奈津をさらなる境地へと導いた。

 『ミルク・アンド・ハニー』では、40歳になった奈津が脚本家志望の7歳年下のヒモ男・大林と同居する。大林は付き合い始めこそ情熱的だったが、今では働かず、飲み歩き、奈津を抱くこともない。奈津はいつもどこかさみしく、ヒモとしてせめて身体だけでも満足させてくれない大林を恨めしく思う。

 「心の寂しさまではどうせ埋まらないのだから、せめて肉体の欲を満たして欲しい」と、媚薬、出張ホスト、AV男優のサロン、ハプニングバーなど、奈津は様々なシチュエーションで経験を重ね、さらなる性の深みにはまっていく。

「無尽蔵の生命力で獲物をとことん追い詰め、手に入れるまで落ち着くことのない猛獣。誰かを好きになるとは、その狂ったケダモノを身の裡に飼っておくのに等しい。...こんなばかばかしい苦しみから解放されたい。心底そう望んでも、何しろ持病だから、簡単にはこの身体を離れていってくれない。それが、恋だ」

 物語の終盤、奈津は実家で20年ぶりに従弟の武と再会する。「あれほどの前科を持つ自分が、こんな純情な生きものに変貌しようとは」――。自由、孤独、欲望の極限を見てきた奈津が、最後にたどり着くのはどこか?

 奈津が自認するように「どうしようもない」と批判する見方もあるだろう。それでも、「自分の中に何人もの自分がいて、それぞれを満たそうとすると一人では足りず、別々の相手が必要になってしまう」など、多くの女性が心に思ったとしても口にすることがはばかられる台詞を、奈津が代弁してくれているようにも受け取れる。これほどまでに自身の欲望に素直な奈津の生き方は、潔く、羨ましい。

 著者の村山由佳は、1964年生まれ、東京都出身。立教大学文学部卒業。2003年『星々の舟』で直木賞受賞。

 (BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 ミルク・アンド・ハニー
  • 監修・編集・著者名村山 由佳 著
  • 出版社名株式会社文藝春秋
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・560ページ
  • ISBN9784163908397

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