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もしもウォルト・ディズニーが生きていたら...

美しい海の浮遊生物図鑑

 谷川俊太郎さんなら、たちどころに一編の詩を紡ぎだすだろう。ウォルト・ディズニーなら夢とファンタジーに満ちた愛らしい妖精物語を描きはじめるに違いない。本書『美しい海の浮遊生物図鑑』(文一総合出版)を手に取って、そんな思いにとらわれた。

 何しろ、とってもかわいいプランクトンなどの写真が、これでもかというぐらいたくさん収められている。海の表面を一枚はがして内部に潜り込むと、かくも美しい世界が広がっているのかと驚嘆する。浮遊生物250種類以上を収録した、世界初の写真図鑑だという。

カメラにはタラバガニのよう

 何年か前に、NHKの特番で、オホーツクの海に生息するプランクトンなどの特集を見た記憶がある。カメラマンがアクアラングに身を包み極寒の流氷の海を探ると、そこは小さな宝石のようなプランクトンや小生物の宝庫だった。冷たい海流に身を任せながら、悠然と漂っているミクロな生き物たち。クリオネなどは、あの番組で一気に知名度が上がったような気がする。

 本書の撮影を担当した水中写真家の阿部秀樹さんは1957年生まれ。かなり前からこうした海の神秘に吸い寄せられ、写真を撮りためてきた。おそらくはNHKのカメラマンよりも、この方面に関してはベテランだろう。最初のころは自分が目にしているものが一体何なのか、それすらもわからなかった。関係の書物もほとんどなく、国会図書館に通って海外の文献なども漁って自分で調べたという。今ではNHKの番組などによって、海の中の神秘は一般でも知られるようになったが、阿部さんはおそらく先駆者の一人だろう。

 本書は、クラゲ、クシクラゲ、ゾウクラゲ、カメガイ、イカ・タコの幼体、エビ・カニの幼生、タルマワシ、稚魚、放散虫など、海に漂う多様で多彩な生物を高精細な写真で紹介している。主に実物大で掲載されているのだが、その小さいこと。虫眼鏡で見ないと判別がつかないようなものもある。どうやって撮影したのだろうか。

 本書内のコラムで、撮影機材の一部が紹介されている。それを見て、たまげた。かなりの重装備なのだ。カメラにはタラバガニの手足のように多数のライト類が付いている。いわれてみれば当たり前なのだが、海の中は明るくない。照らしてやらないと写らない。地上の撮影のように、さまざまな付属品がすでに市販で売られているわけではないから、ほとんどは自作のようだ。いろいろ試してみて、効果があるには10に一つぐらいだというから、試行錯誤の連続だ。

 本書では「浮遊生物を観察してみよう」「浮遊生物の撮影に挑戦」などの章もあるので、トライしてみたい人には参考になりそうだ。

環境破壊が怖い

 BOOKウォッチでは、『世界の海へ、シャチを追え!』なども紹介したが、海の生物に魅せられた人たちの執念には恐れ入る。

 だが、美しい話ばかりではない『シャチを追え』では、この10年ほど、西ヨーロッパの沿岸域でシャチの新しい子どもが誕生していないことを伝えていた。繁殖能力を失っているというのだ。原因はシャチの体内にため込まれたPCBのせいだという。食物連鎖の頂点にいるシャチは、汚染化学物質を最も高い濃度でため込む。そうした環境汚染の被害をもろに受けているというのだ。

 個体の大きさが最大級のシャチでさえ、環境破壊のダメージを受けている。一方で最小級の「浮遊生物」の場合はどうなのだろう。最近は「プラスチック」による被害も盛んに報じられ、国際的な対策が課題になっている。とりわけ「マイクロプラスチック」といって微小なプラスチックが海の生物に与える影響が懸念されている。

 プランクトン類にも何らかの影響があるかもしれない。本書の本文を執筆している海洋研究者たちはおそらく、そうしたことについても調査を進めていることだろう。「海の宝石」のような写真を見るにつけ、微小な生き物たちの生活環境が存続することを願わずにはいられない。

 そこで一つ提案。本書を彩る写真をもとにブローチやバッジを作ってみてはどうだろうか。NGOなどが海の生き物を守る環境キャンペーンなどで売って、世間にPRするのだ。国連でも、環境問題も含めたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に力を入れているから、誰かやりたい人がいるかもしれない。

  • 書名 美しい海の浮遊生物図鑑
  • 監修・編集・著者名若林 香織 著、田中 祐志 著、阿部 秀樹 写真
  • 出版社名文一総合出版
  • 出版年月日2017年10月27日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数A5判・180ページ
  • ISBN9784829972212

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