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「昭和」は遠くなりにけり、さくらももこさんのエッセイ再び脚光

ももこの話

 8月15日(2018年)に亡くなった漫画家さくらももこさん(享年53歳)の訃報は、多くの人に衝撃を与えた。代表作『ちびまる子ちゃん』のアニメ放送は9月2日、追悼特別編成となり、視聴率は前週に比べて約9ポイントアップし、今年最高の14.3%を記録した。放送された2本のうち1本は、「まる子、きょうだいげんかをする」で1990年1月7日の第1話のリメーク版(2011年10月16日放送)の再放送だった。評者も見たが、全体に「昭和」へのノスタルジーが感じられ、年配者は懐かしむだろうが、今の子どもたちには通用するだろうか? と思わざるを得なかった。日曜のゴールデンタイムで5%台という数字はテレビ局としては微妙なところだ。

 ところで、さくらさんは漫画のみならず、エッセイの名手としても知られた。91年の初エッセイ『もものかんづめ』はベストセラーとなり、以後多くの作品を残した。さくらさんは私生活を明かさないことで有名で、唯一読者に開かれた回路がエッセイだった。書店で再び売れていると聞き、評者も店頭に走ったが、初期シリーズは手に入らず、かろうじて98年に刊行された『ももこの話』の文庫版(2006年発行)と『まる子だった』(97年刊行、2005年文庫化)を入手し、読んだ。

初期シリーズは底意地の悪さが評判に

 ネットでは漫画と違い、エッセイには作者の底意地の悪さが出ているという書き込みが目立った。漫画ではまる子の良き理解者である好々爺として描かれているお祖父さんは、実際には「全くろくでもないろくでもないジジイであった」(『もものかんづめ』所収「メルヘン翁」)など、家族にも容赦ない。しかし、エッセイも評者が読んだ後期シリーズになるとアクも抜けて、単なる昔話と身辺雑記が多く、正直期待はずれだった。

 その中で印象に残ったのは「おとうさんのタバコ」という一文。「私は大の愛煙家だ」で始まる。「朝起きてまずタバコを吸い、昼間から夕方まで仕事をしている間もずっと吸い、夜眠る直前までタバコを吸う」とあるからかなりのヘビースモーカーだ。大丈夫かと心配になるが、「肝心なことは、タバコが私に健康をもたらしてくれている」とまで書いているから口出しは無用だ。「強いタバコをガンガン吸っているからこそ、吸っていない人の二十倍ぐらい健康に気をつけ、日夜健康の研究にとり組んでいる」そうだ。

 巻末のQ&Aでは一日のサプリメント事情などを紹介。マルチ・ビタミンのカプセルとコエンザイムQ10、セサミンを摂取、お茶はプーアールとウーロン茶のブレンドを飲み、ブロッコリーのスプラウトも毎日食べ、塩や油や水にもこだわっている、と書いている。さくらさんが乳がんで亡くなったことを思えば、このくだりにはしんみりとさせられた。

 「平成」が来年終わると、「昭和」は「大正」や「明治」みたいな感じになるのか、という声が聞こえてくる。さくらさんの漫画やエッセイは、いずれ歴史資料になる日が来るかもしれない。  

  • 書名 ももこの話
  • 監修・編集・著者名さくらももこ 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2006年3月25日
  • 定価本体480円+税
  • 判型・ページ数文庫判・229ページ
  • ISBN9784087460216
 

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