「話が長くてうんざり」といえば、その相手はたいてい年配者というのが相場だ。ところが現代では若者の話が要領を得なくて周囲を困らせるケースが増えているという。書店には、就活の学生や新人ビジネスマンを対象にした話し方やプレゼンについての書籍が並ぶ。それらには「内容の盛り過ぎに注意せよ」という指摘が共通している。
本書『ひと言で伝えろ』(WAVE出版)は、放送作家の著者が、時間が限られたテレビ番組の制作手法を応用した「伝え方」を述べたもの。どんなことも一度にすべてを伝えきることはできない。まず目指すは「わかった気にさせる」ことという。
相手に何かを伝えようとすれば話すときでも書くときでも、あれもこれもと思いついつい盛り過ぎてしまうものだ。本書では「『説明がわかりにくい』と言われてしまう人の最大の特徴は、説明が長いこと」とばっさり。テレビの現場では「できる」とされる人たちの説明は例外なく「短くてわかりやすい」といい、著者自身もそれを心がけている。それはスキルを磨けばだれでもできるようになるもので、視聴者に「短く」「わかりやすく」伝えるミッションをこなしながら練ってきたという。
著者は、各キー局の情報バラエティーや報道、クイズなど、あらゆるジャンルの番組で企画・構成を担当、25年以上の経験を持つ放送作家。大学在学中に三遊亭円楽(当時は楽太郎)門下に弟子入り、落語家としてのキャリアも持っている。
話の長い人、盛り過ぎする人には真面目な性格の人が多いという。正確に伝えたい、漏れなく伝えなければと取り組むあまり、いろんな要素を詰め込んでしまいがち。こうした人たちは、自分の説明が伝わっていないのを感じると「足りないことがあったに違いない」と考え、次にはさらに情報量を増やすことになり分かりにくさがさらに増すという悪循環に陥る。「あれもこれもと、いろんな要素を詰め込んでしまうため理解されないケースの方が現実には圧倒的に多い」と著者。
「投げられたリンゴをキャッチして、すでに両手がふさがっているのに、まだまだリンゴを投げてこられたら、あなただって困るはずです」
人間は新しく見聞きした事象を、日常のパターンに分類することで理解が進む。長い説明は、要素が多すぎて構造が複雑化し聞き手は自分の頭の中の記憶と合致させにくく理解が進まなくなる。
話す内容、方向を、聞く側の日常のパターンのなかに組み込めるようにすれば注意をひきつけられる。プレゼンなどに絶好な3つの技術があるという。
まず一つは、自分に関係があることだと思わせること。ビジネスの場で、長くなってしまいそうだなと懸念があるものを説明する際に有効という。「何をやっても三日坊主になってしまうあなた」「どんなダイエット法でも痩せなかったあなた」―など、テレビ番組でよく使われる手法だ。営業ではたとえば「コストを半減させる提案をもってきました」などとメリットを強調すれば、相手の関心を刺激できるという。
二つ目は「不安を喚起させること」。がん保険のCMで「いまや、2人に1人はがんに...」「死亡する3人に1人はがんが原因となっている時代」と、商品紹介の本論に入る前に振られるマクラことばがそれだ。注意しなければならないのは、誇張して必要以上にあおることがないこと。そして、不安を喚起して心をつかんだあとは、それに対応する安心材料を加えることを忘れてはいけないという。
三つ目は、なぞかけだ。相手の頭に「?」を浮かべさせること。かつてのベストセラーのタイトル「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(光文社)はその代表例という。相手に身を乗り出させるこの手法は「ザイガニック効果」を利用したもの。これは「未完結な情報や中断された情報は記憶に残りやすく、反対に完結している情報は忘れやすい」という人間の記憶をめぐる性質だ。
いずれのテクニックも調子に乗って盛り過ぎてはいけないはずだ。
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