本書『僕の知らない、いつかの君へ』(スターツ出版、2017年)で印象的だったのは、「ネットの情報は信じない。SNSとかブログとか、嘘が当たり前の世界でこれは大前提なのだ」という主人公の言葉。ブログの訪問者については、「会えもしない、顔もわからない相手のブログにせっせと通う気持ちは理解不能。こんなのいくらでも嘘をつけるのに」と考える。
主人公・慶太は、アクアリウムが趣味の高校2年生。慶太の姉・美貴の名前を借りて「ミキ」と名乗り、女性のフリをしてブログを綴る。ある日、慶太はブログで「ナナ」という人物と出会い、以来「ナナ」とのやりとりが楽しみになる。そうした中、「ナナ」からのある告白をきっかけに、慶太は同じクラスの菜々子こそが「ナナ」であると確信する。ブログで「ナナ」に好感を抱いた慶太は、クラス活動を通して菜々子と仲を深めていく。
「しょせんは見た目が九割、十割。そんな風にしか誰かを好きになったことがなかった」慶太は、クラスでナンバーワンの美女に言い寄られるほどのモテ男。しかし、慶太の心を動かしたのは、スマホで人と繋がろうとせず、「読んだかどうかわからない手紙の返事を待つほうが、わくわくするって思わない?」と言う、アナログなタイプの菜々子だった。
このままでは菜々子を騙しているような気がして、いずれ「ミキ」の正体を打ち明けようと考える慶太。ところが、菜々子がブログにある文章を書き込んだ日から、2人の関係に暗雲が立ち込める――。
著者の木村咲は「あとがき」で、スマホで誰かと繋がっていないと不安を感じる若者が増えていることに触れ、「勇気を出して一日にほんの少しの時間でいい...スマホの電源をオフにして、本当にひとりの時間を作ってみてほしいな。...心で繋がっていられる友達や恋人をみつけてもらえたらいいな」と、本作に込めた思いを記している。
スマホをどれだけ駆使して、依存するかは、世代が大きく関係する一方、その人の性格や価値観にもよるだろう。スマホが圧倒的な存在感を放つ今、あえてその逆の、何物も介さない人と人のやりとりに価値を見い出す著者の考え方に、大いに共感する。
著者は、2017年8月に本作(原題『まだ君のことは知らない』)で、第2回スターツ出版文庫大賞恋愛部門賞を受賞。他に、大人の女性3人の切ない恋を綴った『いつかの恋にきっと似ている』(スターツ出版)がある。女性のリアルな心の葛藤を細やかに描き、共感を呼んでいる。
BOOKウオッチではスマホについて、『スマホが学力を破壊する』(集英社)、『ある日突然、普通のママが子どものネットトラブルに青ざめる』(アイエス・エヌ)なども紹介している。
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