アジアをまたにかけキャバクラで働いたカワノアユミさんの体験記が本書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イースト・プレス)である。どこの国にも女性のいる飲食店、風俗店はあるだろうが、「キャバクラ」というすぐれて日本的な業態の店が他の国でもあるのか、と言えばあるのだ。
アユミさんが勤めた海外キャバクラは、香港、タイ・バンコク、シンガポール、カンボジア・プノンペン、ベトナム・ハノイと5つの国・地域にわたる。現地の人や外国人客が来ない訳ではないが、ほとんどが日本人の客だ。日本企業の現地駐在員、日本からの出張客もいれば、何をやっているのか分からない客、ほとんど犯罪者みたいな客もいる。海外キャバクラは、日本人の集まる小さなコミュニティーとなっている。
アユミさんが自分で「底辺キャバ嬢」と呼んでいるのは、日本にいた頃まったくやる気のないキャバ嬢だったからだ。頭の中は遊ぶことだけ。客がつかないため、時給が保証される最初の1か月が過ぎるとクビになるのを繰り返していた。勤務態度も悪かった。待機中に寝る、私用電話、裏でタバコ、接客中にチャーム(客用の菓子)を食べていた。とうとうスカウトマンからも紹介する店がないと言われ、金欲しさに飛びついたのが、香港のキャバクラ行き。「日給3万円、10日間のアルバイト」という怪しげな話だった。
2001年こうしてアユミさんは初めて海外キャバクラで働くことになった。一緒に行った足立区ヤンキー2人組は、行って早々に江戸川区との抗争が気になり帰ってしまった。アユミさんは値切られそうになりながらも30万円を手に帰国した。
その後は、沖縄、大阪、名古屋、福岡など全国を転々としながら夜遊びを繰り返していたが、「日本に飽きた」とタイでの就職を思い立った。バンコクに移住したが、現地採用の厳しい現実に直面し、結局、またキャバクラで働くことになった。そこで日本からの出稼ぎ組に負けたくないとがんばり、店でナンバー1(最高月収25万円)になった。だが、それも長続きせず、3か月半勤めて、ふたたび別の国に移った。
以後の海外キャバクラの実態は数々のエピソードに彩られているのだが、それは実際に読んでいただくとして、アユミさんが海外キャバクラで働く女性について3つに分類しているのが面白いので紹介しよう。
1 日本から何となく来た子 最も多く、何となく海外で働きたいタイプ。 2 現実逃避系 海外に希望があるのではと来たタイプ。香港、シンガポールに多い。 3 男目的や男絡みで来た子
本書のような本はありそうで実はなかった本である。男性ライターが男性向けに書いたアジアを対象にした遊興ガイドの本は少なくないが、本欄にはなじまない。また実際に海外キャバクラなどで働いたことのある女性は、その事実を知られたくないし、書こうとはしなかった。女性の視点で書いたからこそ、海外で暮らす日本人(男性も女性も)の実相が浮かび上がってきた。
アユミさんは長かった旅を終えて、以前からやりたかったライターとなり、現在はウェブ媒体を中心に執筆している。
タイで働く日本人の若者の就労実態については、以前本欄で『だから、居場所が欲しかった バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)を紹介した。それが昼の生態としたら、本書は夜の生態をあますことなく紹介した本と言えよう。たくましい著者のバイタリティーに圧倒される。
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