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映画『ラプラスの魔女』を見たら読みたくなる

魔力の胎動

 人気作家東野圭吾の作品がまた映画になった。ゴールデンウィーク中に封切られ、今も上映が続いている『ラプラスの魔女』。同名の空想科学ミステリー作品が原作だが、「『ラプラスの魔女』前日譚」として刊行されたのが、本書『魔力の胎動』(株式会社KADOKAWA)だ。関連の新作を映画上映にあわせて出版するという宣伝の術策にはめられたとわかっていても、東野ファンとしては、結局、心地よく読んでしまった。

 前日譚という位置づけの『魔力の胎動』を紹介するためには、その本編である『ラプラスの魔女』をまず、説明しなければならない。空想科学ものは東野の得意分野だ。彼が理系大学出身の元エンジニアだけに、その装いには説得力があるように思える。ただ、小難しい説明はナシ。あっさり解説しているので、読みやすい。

 ラプラスは、18世紀末のフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスのことで、「すべての出来事は予測可能」という説を唱えたことで知られる。この説は「ラプラスの悪魔」と呼ばれている。そんな予測能力に翻弄される登場人物が、連続殺人事件の謎を解き明かして、その背景にあるおぞましい人間の性を目の当たりにするという物語だ。

 「未来がなんでもわかっちゃうもんね」という、いわば「トンデモ」話が登場したのでは、ミステリーはしらけてしまうように思うが、それでも東野作品に引っ張り込まれるのは、場面設定が巧みだからだろう。

 雪国の温泉地での硫化水素中毒による死亡事故。突然の竜巻にまきこまれての悲劇。実際に起こった事件をストーリーに盛り込み臨場感を醸し出す。また、先の「ラプラスの悪魔」をはじめ、ナビエ・ストークス方程式とか温室効果ガスなど科学用語をちりばめた装いが、「トンデモ」感をうすめてくれる。

 そして、予測能力については、特別の情報処理能力(アルゴリズム)と、膨大な情報の分析を繰り返す訓練(機械学習)に基づくと説明されるが、これは人工知能(AI)のことを言わんとしているようにも思える。

 映画では、予測能力と関係する美少女「ラプラスの魔女」こと羽原円華(うはら・まどか)に広瀬すず、美少女にふりまわされる大学教授に人気グループ嵐の櫻井翔、そして、事件のカギをにぎる謎の少年に福士蒼汰が扮する。リリー・フランキーや、豊川悦司らわき役の怪演も見ものだ。

過去の東野作品のテーマ掘り下げる

 さて、『魔力の胎動』だが、円華と青江教授が登場する。本編の『ラプラスの魔女』にいたるまで活躍が描かれる連作ミステリー。5つの短編で構成される。素材がスポーツ、医療、性同一性障害とバラエティに富む。いずれも、過去の東野作品を思い起こさせる。スキージャンプ競技を取り上げた『鳥人計画』、高校野球が舞台の『魔球』。水難事故に関係する『麒麟の翼』、男と女をめぐる『片思い』。それぞれの作品で掘り下げた内容がベースになっているので、本書の短編も読みごたえがある。しかも、登場人物には、現役最高齢ジャンパー、贋作で名をはせた目の不自由な作曲家ら実在の人物を思わせる設定があり、「こんな裏話があったらおもしろい」という読み方も楽しめる。

 映画化された東野作品は数多いが、シリーズものは、科学者探偵の『ガリレオ』(主演・福山雅治)、『刑事・加賀恭一郎』(同・阿部寛)が定着しているといえるだろう。 『ラプラスの魔女』では、予測能力に関する重要人物が行方不明のままで、物語は終わっていない。この人物がどううごめいていくのだろうか。すずちゃん、櫻井くんはこれからどうなるのか、気になる。  

  • 書名 魔力の胎動
  • 監修・編集・著者名東野圭吾 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年3月23日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・316ページ
  • ISBN9784041067390

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