肉や魚に比べると、野菜についてはオフィシャルな「摂取目標量」が盛んにアピールされて、食べろ、食べろとシリをたたかれる。そこにジュースなど野菜の加工品のメーカーも加わり官民一体となった運動が長く続いている。さまざま野菜のルーツをさかのぼり、バラエティー豊かなベジタブルストーリーを盛り込んだ本書『身近な野菜の奇妙な話』(SBクリエイティブ)によると、野菜の多くはその起源が薬草であり、長い時間をかけて改良されたものという。その活用法もやさしく教えてくれる。
著者は、ガーデナー(造園家)や自然写真家を兼ねるサイエンス・ジャーナリスト。植物と動物の相関性について実地調査や研究、執筆活動を行っている。仕事場のハーブガーデンでは小規模な野菜畑を営む。来園者からしばしば「なぜハーブガーデンで野菜を?」を問われるという。実は「野菜の多くはハーブ」であり「薬草としての歴史を持ち、原産地の周辺では現代でも薬効が尊ばれている」のだ。
ネギやショウガを思い浮かべればいいのだろうか。
日本で流通している野菜は150種ほどで、その90%以上は海外の国々を「祖国」に持つという。食品については特に近年「国産」が好まれる傾向にあるが、野菜はそもそもが国外産だったのだ。
世界中に存在する「高等植物」は約30万種と推定され、ある専門家は、このうち約10%が、われわれの衣食住や医療面で有用としているという。つまり人間にとって何らかの役に立つ植物は約3万種あり、野菜はこれら、あるいはこれらの原種に人間が改良を加え、われわれの食生活に供される「野菜」に育てたもの。しかし、これら「畑で元気に根を伸ばす」ようになったものは「極めて変わった植物」。適応力が非常に高かったからという。ならば、人間の健康にもいいに違いない。
「アフリカの砂漠地帯や南米アンデスの高山に棲んでいたものが、日本の畑でお行儀よく並び、のんびりと花を咲かせているのは、恐ろしく柔軟で斬新な生命力に恵まれているからである」
本書では「38の野菜にまつわる86話」を収録。なかには「野菜」に分類されることがしばしば「意外感」を刺激するイチゴやメロン、スイカのパートもある。数年ほど前からスーパーの野菜売り場も並ぶようになったアーティチョークやパースレイン、グリム童話の主人公の名前にもなったラプンツェルなどについても意外なストーリーが紹介されている。
実は「野菜の正体はまだまだ分からないことだらけ」で、野菜がどれだけの物質を含んでいるか正確な知見はまだ存在しないという。野菜で摂れる栄養は、ビタミン、ミネラル、繊維質のほか「未解明の物質が数百から数千種あると推測される」のだ。しかも野菜が生成する化合物の種類はとんでもない数にのぼる。本書は、世界がん研究基金の「野菜の摂取とがん発症リスク」についての報告を引いているが、それによると、なにを摂取すればどのがんの予防に効果的だったかをみるため、世界中の4500以上の疫学論文を精査したところ、有効成分をだけを抜き出して摂るよりも「雑多な成分のカオスである野菜や果実を丸のまま食べた方が効果的」と報告している。
厚生労働省が掲げる野菜の1日の摂取目標は350グラム。起源が野草だったことを考えれば、食べるほどに効果があるかもしれないと思ってしまうが、著者は「いまのところ野菜の『あなたの健康に及ぼすであろう影響』については、その多くが未解明であることをはっきりお伝えしておきたい」と述べている。野菜も摂り過ぎには注意すべきか...。
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