読むべき本、見逃していない?

闇の世界に 4か月、極寒の北極、ここはどこ?

極夜行

 「探検家」の肩書きをもつ著者角幡唯介さんは、チベットの「謎の峡谷」と呼ばれていたヤル・ツアンポー峡谷を二度にわたり踏査、その探検記『空白の五マイル』で、開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。その後発表する作品も新田次郎文学賞、講談社ノンフィクション賞などを取り、いまや数少ないノンフィクションの書き手として注目されている人だ。

 チベット探検の後もニューギニア遠征、雪男探索、カナダ北極圏の長大な徒歩行などの探検をしてきたが、本人にすれば「探検未満の行為」で欲求不満。真の探検をすべく挑戦したのが、本書『極夜行』(文藝春秋)で描かれた、太陽が昇らない(さらに月光すら届かないこともある)暗闇の中での4カ月の北極圏の旅だった。

 真の探検になるように、GPS(全地球測位システム)を使わず六分儀による天測をめざしたが、出発早々に六分儀を失い、事前に小屋に蓄えていた食料なども白熊に奪われるというトラブルの連続。果たして自分は正しい方角に向かって歩いているのか、食料はいつまでもつのか、もしかしたら死ぬのでは、と追い詰められてゆく。

最後は本能が頼りに

 「システムの外側の領域に飛び出し、未知なる混沌の中を旅する行為」をめざしたのだが、かけておいた安全策が次々に破綻し、本当の極限状況に追い詰められ、著者は逆に歓喜にうちふるえる。マゾヒストのようだが、真の探検により近づいたからだ。そこで生き残りのカギとなったのは、4年間の準備期間の間に何度も現地グリーンランドに通い、研ぎ澄ましてきた自らの本能や勘だった。

 唯一の命綱ともいえる道連れの犬の好物が人糞だったとか、かけだしの新聞記者時代に通いつめたキャバクラの美女が月明かりの幻想に似ているとか、死地をさまよう描写の中にときおり挿入されたエピソードが笑いを誘う。

 衛星電話を持参したことも率直に書いている。独身だったら持って行かなかったが、準備期間中に結婚し、娘が生まれた状況の中で、持っていかざるを得なかったという。

 本書の書き出しは東京医科歯科大学附属病院の分娩室の描写から始まる。娘が生まれる場面だ。著者がなぜ極夜行を次の探検のモチーフに選んだのか、出産シーンが出た時点で答えは予想されたが、ラストで4カ月ぶりに目にした太陽の美しさに感動する著者に、うなずくしかないだろう。極限の探検を制覇した著者が次にめざす探検はなんだろう?

  • 書名 極夜行
  • 監修・編集・著者名角幡唯介 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年2月10日
  • 定価本体1750円+税
  • 判型・ページ数四六判・333ページ
  • ISBN9784163907987

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