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鯉のぼり、最初はいなかったお母さん

鯉のぼり図鑑

 間もなく「鯉のぼり」の季節。とくに大都市圏では近年、少子化の影響や住宅事情によるものか、五月晴れの青空の下で勇壮に泳ぐ「鯉」の姿はあまりみられなくなっている。それを補うかのように各地の観光地では、川渡しのこいのぼりなどが盛んになり数年前からは東京都内でも行われている。

 日本鯉のぼり協会編の『鯉のぼり図鑑』(小学館)は2018年2月に刊行され、披露の本番である端午の節句が近づくにつれ上り調子のテンポが速まり4月までに重版になったという。まだまだイキはよさそうだ。

武家の習慣を町人まねて誕生

 5月5日は、五節句の一つ「端午の節句」の日。節句は中国の陰陽五行説に由来し日本の暦に定着した季節の節目となる日をいう。ほかに、1月7日(人日、七草の節句)、3月3日(上巳、桃の節句)、7月7日(七夕)、9月9日(重陽、菊の節句)がある。中国では5月は、悪い気を払う必要があり、そのために爽やかな香りを持つ菖蒲(ショウブ)が用いられ、端午の節句は菖蒲の節句とも呼ばれる。菖蒲=尚武の連想から、武家社会が本格化した鎌倉時代に入ってから祝い事が盛んになった。

 その後、菖蒲の葉の形が刀剣を連想させることなどから「端午」は男の子の節句とされ、その成長や健康を祈って室内に刀や武具を飾り、また、庭に馬印や幟(のぼり)を立てて出世の願かけにするようになった。本書によると、鯉のぼりが登場するのは時代が下って、江戸時代中期。武士の家で端午の節句が近づくと庭や玄関先に幟や旗指物を掲げていたのを町人がまねるようになり、中国の故事である「登竜門」にちなんで、幟をコイの形にしたのがこいのぼりの始まりという。

 登竜門は、それをくぐることに成功すれば立身出世つながる関門の意味。「竜門」は黄河にある激流で、これを登った鯉が「竜」になるという言い伝えがあるという。

 こいのぼりは、鯉の姿が描かれた幟が掲げられているだけではない。幟用のポールでこいのぼりに上部に飾られるのは「吹き流し」。現代ではさまざまなデザインがあるが、元々は陰陽五行説に由来して5色に染められ、戦国時代から魔除けとして使われていた「五色吹き流し」が主流だった。また、ポールの上に載せた「回転球」や「矢車」は、神様が下りてくる目じるしの役割があるのだ。

ファミリー象徴し震災復興にも

 鯉のぼりに親しみを持つ理由の一つに、♪やねよりたかいこいのぼり~ではじまる「こいのぼり」という歌がある。ゴールデンウイークの連休前やその期間中に各地でしばしばBGMとして流されている。作られたのは1931年(昭和6年)。歌詞には「おおきいまごいはおとうさん、ちいさいひごいはこどもたち」とあり、明治から昭和にかけて強かった父権が反映されている。本書を編集した日本鯉のぼり協会には子どもたちから「お母さんの鯉はどれですか?」という質問が多く寄せられるそうで、同協会によれば、現代のこいのぼりでは、赤色の「緋鯉」はお母さん。子どもたちは青、緑、ピンク色となって掲げられているという。

 本書には、こうしたこいのぼりの歴史から、時代や地域ごとの特徴、製作工程や現代のさまざまな製品を解説。全国の鯉のぼりイベントの紹介もあるのでゴールデンウイークのおでかけガイドにもなりそう。図鑑と銘打っているので、メーンにすえているのは、バラエティー豊かな100点以上の鯉のぼりの紹介。関東と関西での仕様の違いついての解説や、コンテンポラリーなデザイナーズこいのぼりも取り上げている。

 鯉のぼりは、時代が進んでファミリーを象徴するようになり、登竜門伝説でたたえられる勇気もあって、東日本大震災(2011年)からの復興を後押しするイベントなどでも使われている。本書は「世界で初の鯉のぼり本」。今年の端午の節句は、鯉のぼりをよく知る機会だ。

  • 書名 鯉のぼり図鑑
  • サブタイトルおもしろそうに およいでる
  • 監修・編集・著者名日本鯉のぼり協会(編)
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2018年2月14日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B5判・80ページ
  • ISBN9784096822555
 

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