『街場の天皇論』など多くの著書をもつ神戸女学院大学名誉教授の内田樹(たつる)さんは、いま神戸市内で武道と哲学の私塾「凱風館」を主宰する。約300人規模の「教育共同体」だが地域共同体のハブとしても機能し、徒歩10分圏内に20人が住んでいるという。メンバーはそれぞれ自分の特技を共同体にサービスするため、お金のやりとりなしに活発な交換が行われ、豊かに暮らせるという。
そんな内田さんが地方移住をめざす人たちのための情報誌「TURNS」に連載したものを加筆修正したのが本書『ローカリズム宣言』(デコ)だ。いま都会から地方へ移住する人が増えているが、その必然性を説いた理論武装の書といった趣がある。
日本をローカルに「分節」せよ、という「廃藩置県」のすすめの章、脱都会で人間的成長をめざせという「地方で生きる意義」を説いた章など、内田さんらしい論が展開されている。
面白い事例を紹介している。凱風館の道場を作った工務店は岐阜県中津川市の加子母という人口3000人の集落にあるが、ファストフードもコンビニもないところに27軒もの飲食店があるそうだ。外食時に訪れる店を住民同士で調整し合っているため、これだけの店が共存できるのだという。
こうした小さなスケールの地域共同体を核に、自然資源を維持し、次世代への伝承をめざす「定常経済」がこれからの社会を支えると内田さんは予測している。
評者の周辺でも、東京から宮崎へ、名古屋から高知へと移住した若者がいる。人口減少が進む地方にあっては、移住者たちが行政の支援もあり、地域おこしの核になるケースも目立つ。
内田さんはこの流れを資本主義経済の限界を感じ取った人たちの「逃れの旅」ととらえている。地方に移住する若者以外でも、農業、医療、教育、出版、芸能など資本主義市場経済システムが壊れても食っていける職業を選択する若者が増えていると指摘する。また、雑貨店や飲食店を自営するのがファッショナブルという風潮がある。「小商い」で生き延びろ、と説く内田さんの理論を多くの若者は無意識に実践しているのかもしれない。
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