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チンパンジーはなぜエイズで死なないのか

日本人の遺伝子

 なかなか魅力的な問いかけが並んでいる。「日本人はどこから来たのか」「あなたを動かすさまざまな遺伝子」・・・。本書『日本人の遺伝子―― ヒトゲノム計画からエピジェネティクスまで』 (角川新書)は、一石英一郎・国際医療福祉大学病院内科学教授による遺伝子学の現状の解説書だ。ですます調で書かれており、内容は平易だ。

大胆な推理

 興味深いのは、やはり「日本人はどこから来たのか」。考古学的なアプローチでは様々な知見があるが、本書は遺伝子学がベース。細胞に数多く含まれる「ミトコンドリア遺伝子」を調べたところ、中国の中央部の長江流域の人たち、それと意外なことに、セム族のユダヤ人と非常に似ていることが分かったという。

 イネゲノムの分析で、日本のジャポニカ米は長江流域経由とわかった、宮崎県には中国からの難破船が漂着する、「魏志倭人伝」には倭人の入れ墨の風習などが書かれており、それは中国南部の海南島の部族と似ている、沖縄のユタによれば、「日本の神々のルーツは沖縄にある」という、などを踏まえて著者は、日本人の祖先は「はるか昔、稲穂を一本持って、中国から琉球を経由し、いわゆる『天孫降臨』して日向の国にやってきた、と考えられるのではないでしょうか。当時の中国は戦乱の真っただ中でしたから、戦火をくぐり抜けながら、当面の食い扶持である稲穂を握りしめて逃げ出した、というほうが合っているかもしれません」と推測する。

 ロマンに満ちた話ではある。しかし、海南島と長江は相当離れているし、神話と科学が混ざった、かなり大胆な推理となっている感じがした。

日本での遺伝子解析研究はトップレベル

 後段では、遺伝子が必ずしもすべてを決めるのではなく、「エピジェネティクス」によって操作が可能だと書かれている。設計図上にある遺伝子をオンにしたり、オフにしたりすることで調整する機能だ。「がん遺伝子」をオフにすることも可能だというのだ。もちろん簡単ではないが。

 また、日本での遺伝子解析研究が、装置の面で世界のトップレベルであることも紹介されている。

 一般の人が興味を持つのは、「チンパンジーはエイズで死なない」というくだりかもしれない。エイズはチンパンジーからの感染なのに、チンパンジーはエイズでは死なない。なぜなのか。ヒトとチンパンジーの遺伝子の際は1.28%。このわずかな差の中に、エイズの秘密が隠されているとみて、エイズに効くワクチンを調べている研究者が、世界でたくさんいるそうだ。まだまだ遺伝子のメカニズムは、わからないことだらけなのだ。

  • 書名 日本人の遺伝子
  • サブタイトルヒトゲノム計画からエピジェネティクスまで
  • 監修・編集・著者名一石英一郎 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年3月 9日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書・208ページ
  • ISBN9784040822020
 

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