第16回「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞を受賞したのが本書『感染領域』(宝島社)だ。バイオミステリーとでも言うべき領域なのだろうか。主人公の植物病理学者・安藤仁の行動力と分析能力に感嘆しつつ、あっという間に読了した。
東大を思わせる帝都大農学部の特認助教である安藤のもとに、農林水産省植物防疫課長の里中しほりが訪れ、九州で発生している原因不明のトマトの病変の調査を依頼する。熊本で栽培されていたトマトの葉や茎はウイルスによって赤くなり、すべて焼却するしかなかった。発見した謎のウイルスの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」の協力を得て進めるさなか、日本最大の種苗メーカー「クワバ」に勤める友人が変死する。安藤は友人が研究していた熟さず腐りもしない新種のトマト「kagla(カグラ)」の秘密の解明を「クワバ」から依頼される。
トマトの成長を阻害するウイルスと新種のトマトには関係があるのだろうか? トマトの病気は九州から四国、西日本へと拡大。さらに原理的にはトマト以外の植物への感染の可能性もあるという。
分析がすすむうちに、「カグラ」の原木を手に入れようとする何者かに安藤は拉致される。安藤はただのインテリ科学者ではなく武道の心得もあり、危機を脱出。日本を巻き込んだ大きな陰謀の真相に迫る。
安藤はかつて高名な科学者のデータねつ造を告発した結果、出世を絶たれたという経歴があった。このあたりは植物と動物という違いや、攻守が替わってはいるということはあるが、理化学研究所を舞台としたSTAP細胞事件をほうふつとさせる。
植物のウイルスが事件のカギとなり、実験室での培養、分析シーンの描写も多いため、著者はてっきり理系の研究者かと思ったら意外な正体だった。著者の「くろきすがや」は那藤功一と菅谷淳夫のふたりによる作家ユニットで、那藤氏は東大経済学部卒の広告会社マン、菅谷氏は東大文学部卒のフリーランスのライターとのこと。大学時代の同じ音楽サークルの先輩後輩の関係だそうだ。那藤さんが本業でトマトジュースの広告に携わり、トマトに詳しくなったという。文系でもここまで科学的な叙述が出来るのかと驚いた。次作も期待したい。
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