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シリーズ125冊目は「国宝のない」県

徳島の土製仮面と巨大銅鐸のムラ 矢野遺跡

 ひところのブームは沈静化したようだが、依然として遺跡や考古学への関心は高いようだ。その一例として、2004年から刊行が続いている新泉社の「遺跡を学ぶ」シリーズがある。一冊ごとに一遺跡について解説する全国各地の遺跡の報告書だ。

 最新刊となるのが本書『徳島の土製仮面と巨大銅鐸のムラ 矢野遺跡』。シリーズ125冊目になるという。それだけ根強い需要があるということだろう。

発見場所が珍しい

 四国は総じて遺跡に乏しい。文化遺産も少ない。特に徳島県は、国宝ランキングなどでチェックすると、宮崎県と並んで全国でも数少ない「国宝のない県」として逆に知られている。宮崎では、県内の西都原古墳から出土した金銅馬具類が県外の美術館に収まり、国宝になっているので、出土品も含めて国宝がないのは徳島だけといわれている。

 そんなこともあって、本シリーズに徳島が登場したのを意外に感じた。何か立派なものがあるのか、そんなはずはないだろうと、思っていたからだ。

 本書で取り上げられているのは、吉野川の流域にある徳島市国府町の矢野遺跡である。1992年からの調査でいくつかの新発見があったそうだ。一つは立派な銅鐸が見つかったこと。これまでに全国で約500の銅鐸が出ているが、矢野遺跡が注目されたの発見場所の特異性だった。

 ふつう、銅鐸は人里から少し離れた山間で見つかることが多いという。開墾や土砂採取中にだれかが偶然発見する。なぜ、誰が、どうしてそんなところに埋めたのか、手掛かりをつかみにくい。ところが矢野遺跡の銅鐸は、すでにある遺跡の発掘調査中に見つかった。生活空間の一角から出てきたのだ。そうした例は全国で10数例しかないそうだ。

大都会だけが日本ではない

 さらに調査を続けていると、こんどは粘土で作られた土製のユーモラスな仮面が見つかった。日本中で土偶は多数発見されているが、土製仮面は100例ほどしかないそうだ。一緒に出土した土器などから、縄文時代後期初頭のものと位置づけられた。

 本書の筆者、氏家敏之さんは一連の発掘の担当者なので、驚きと喜びがあふれる臨場感たっぷりの記述が続いている。矢野遺跡の銅鐸の一般公開では、天候不順にもかかわらず2000人が見学に訪れたという。人口約25万人の徳島市では大ニュースだったのだ。95年には早くも重要文化財に指定された。残念ながらこの遺跡を残した人々の「その後」については、よく分からないようだ。

 本シリーズは2011年に毎日出版文化賞を受賞している。一般に考古関係の出版物は、有名遺跡に集中しがちだが、全国的にはさほど知られていない遺跡も取り上げているとことに意義があるといえる。地元の埋蔵物センターなどでコツコツ調査を続ける研究員にとっては励みになるだろう。子供たちにも、郷土の大昔の姿を詳しく伝えることができて教育的効果も大きい。先史時代に日本列島のあちこちで様々な人々の営みがあり、東京など大都会だけが日本ではないことを再認識できる。

  • 書名 徳島の土製仮面と巨大銅鐸のムラ 矢野遺跡
  • サブタイトルシリーズ「遺跡を学ぶ」125
  • 監修・編集・著者名氏家敏之 著
  • 出版社名新泉社
  • 出版年月日2018年2月10日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数A5判・96ページ
  • ISBN9784787718358
 

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