男性にも「更年期障害」があると、かなり以前から指摘されていたが、加齢による変化として長らく診療の対象とはなっていなかった。人によって中高年以降に現れる意欲減退などの不調は実は、男性ホルモンの減少がもたらす症状であることが分かって近年は治療の対象となり、それに関わる医師らは診療を呼び掛けている。
順天堂大学教授の泌尿器科医、堀江重郎さんはそうした医師の一人。男性が病院での受診に消極的な現状をみて啓発のため、本書『うつかな?と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)を著した。「日常の不満を我慢した挙句、ある日倒れて病院に担ぎ込まれるなどということにならないためにも、日ごろからの養生が大事」という。
男性ホルモンが減少して更年期症状が出る病気は「LOH(ロー)=late-onset hypogonadism=症候群」あるいは「加齢男性性腺機能低下症候群」と呼ばれる。男性ホルモンには種類がいくつかあるが、その代表格は「テストステロン」とよばれるもので、幼少期~思春期には盛んにこれが分泌され「男性」が形づくられる。このテストステロンの減少がLOH症候群をまねくという。
テストステロンの減少→更年期障害という図式ではあるが、こうなるのは必ずしも「年のせい」ばかりではない。LOH症候群は、早い人で30代で発症することもあるという。だが個別には、80歳の人でも20歳の若者より分泌量が多いこともあるという。
LOH症候群をめぐって本書が問題視していることの一つは「うつ病」とのかかわりだ。「LOH症状はうつと非常に重なる部分が多く、密接に関係しています。テストステロン値が低いとうつ病になりやすいし、中高年のうつ病の患者さんはテストステロンが低いことが多いことがわかっています」という。問題を複雑にしているのは、かかわりがあっても同じものではないということ。
うつの診断を受け処方された抗うつ薬を服用しても改善しないことがあり得るが、とくに薬が増えてきたというケースでは往々にしてテストステロン不足が原因になっていることがあるという。そして、LOH症候群のことが気づかれることなく薬の種類ばかりが増えていくと、抗うつ薬のなかにはテストステロンを下げてしまうものもある。
LOH症状によるうつ病の場合は、適切な診断、薬の処方、テストステロンの補充があって効果が得られるということ。テストステロンが下がっているうつ病患者では5割以上の割合でテストステロンの補充が改善することを経験しているが、注意しなければいけないのは、テストステロンの補充がうつ病に対して抗うつ薬より効果があるというわけではないと著者は念を押している。
テストステロンなど男性ホルモンは、男性にとっては、不足すればLOH症候群をまねくなど不調の原因となるが、維持、補充などにより健康的な生活を送る一助になる。米国では170万人が補充治療を受けているが日本では2万人にとどまっているという。本書では、テストステロンの低下を防いだり、上昇を促す方法などについても紙数を割く一方、「『男性ホルモンが高いとハゲる』は本当か」や「メリットいっぱいなEDの治療」「前立腺がんの手術をした人は長生きする?」など、男性ホルモンをめぐる伝説めいた話や質問、疑問に対する解説も加えられている。
男性ホルモンの役割や意義が良く分かり、男性が、まさに内面から磨きをかけるのに役立つ一冊。
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