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デジタルカメラで「魂」を写せるか

土門拳の写真撮影入門

 この人の作品には不思議な迫力がある。写真を見ているのに、写真ではなく、実物と直に対面しているかような錯覚に陥る。

 単に対象を眺めているというのではない。内面の深いところを見ているような気分になる。そして、そのうち逆にこちらも被写体から見られているような気分になる。代表作の神護寺の仏像や筑豊の少女などを見ているうちに、そんな思いにとらわれた人は少なくないのではないか。

ドキュメンタリストの魂に火がついた

 写真史に不滅の足跡を残した土門拳(1909~90)。その「入魂のシャッター」の秘密に迫るというのが本書『土門拳の写真撮影入門』 (ポプラ社)だ。すでに2004年に単行本として出版されて刷を重ね、このほど新書化された。

 著者の都築政昭さんは1934年生まれ。日大の映画学科を出てNHK撮影部に入り、さまざまなドキュメンタリーを手がけた。のちに九州芸術工科大や岐阜県立情報科学芸術大学院大学で後進育成に携わってきた。

 土門と直接仕事をしたわけではないようだ。代表作『古寺巡礼』も古書店で入手したという。しかし、写真を見て、「あとがき」などを読んでいるうちに身震いを感じた。長年、NHKでドキュメンタリーを作ってきたが、自分の作品が妥協の産物だということを思い知らされた。もっと土門のことを知りたいと思って伝記や評伝を探したが、見つからない。ならば自分で書こうということになった。長年のドキュメンタリストの魂に火がついたのだろう。

黒澤明と共通点

 「土門拳のレンズは人や物の底まであばく」(高村光太郎)

 本書は土門自身の言葉に加えて、様々な関係者の証言なども織り交ぜながら、土門の仕事の根幹に迫る。写真と動画という違いはあっても、同じく映像にかかわってきただけに、光やマチエールなどについての技術的な記述も詳しい。

 都築さんにはこれまでに黒澤明や小津安二郎について多数の著作がある。本書の「あとがき」では、土門と黒澤を合わせて論じている。ともに最初は画家を目ざしていたこと、仕事に入ると時間も予算も眼中にない完全主義者であることなど共通点が多い。

 写真はいまやデジタルカメラの時代。手軽になってファンも増えた。土門の時代とは、機材も技術も撮る人の心構えも大きく様変わりした。しかし都築さんはこうアドバイスしている。

 「今一度、近代カメラの生みの親・土門拳の人間と、その撮影技法を学んだら、明日からのカメラを覗く心と技が、確実に変わるに違いない」

  • 書名 土門拳の写真撮影入門
  • 監修・編集・著者名都築政昭 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2017年11月 9日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書・227ページ
  • ISBN9784591156575

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